運命 ページ38
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あれ、なんか、デジャブ。
昨晩も彼氏と友達から逃げてこの場所に足を運んでいた。一人になりたくなくて、でも、知ってる人には見つかりたくなくて来たこの場所は眩しさに比例して影を落としている。
何してるんだろ、本当に。昨日たまたままひとくんに声をかけられて助けられただけなのに、また。もう一度があるんじゃないかと期待している自分がいるんだ。そんな奇跡は現れるはずないのに。
お母さん、心配してるよね。
そろそろ帰らなくちゃ。
そう思っていた時、ポケットに入れていたスマホが震える。噂をしているとなんとやら。お母さんから連絡だろうなと思って開いてみれば『ゆきむら。さんからダイレクトメッセージが届きました』となんとも簡潔な文章が現れた。
「え、」
タイミング、本当に良すぎる。欲しい時に連絡が来るなんて、すごい。ちょっとした運命みたいだなと思ってしまう。『今日、暇だったりする?』というメッセージに少し困る。
なんて返そう。もう、お店が近いから全然行ける距離ではあるけど、でも、秒で着いてしまったらなんか、気持ち悪いのでは……。うーん。
シュポッ、と既読が着いたからか追いメッセージで『無理なら大丈夫』とちゃんと逃げ道も作ってくれる辺り優しいな。なんか、言ってるのが想像できるかも。
揺らいでる。
それも、だいぶ『会いたい』方向に。
でも、一歩が踏み出せないのは今このまま会うと全部甘えてしまいそうだから、迷惑をかけたくない。
再びシュポッと言う通知が入る。その画面に目を落とす前に若い男の子から声をかけられた。
「お姉さんこんばんは〜。旅行帰りとかですか? あ、それとも家出とか? 休憩がてらうちの店寄っていきません?」
「あ、いえ……」
「あ! もしかして担当さん待ちですかー? それなら担当さんが来るまで僕が一緒に待っても……」
「大丈夫です、本当に」
キャリーケースを持っていなかったら直ぐに引き返すことが出来たのに、この大きな荷物は実に邪魔。身動き取れないの分かってて声掛けてるんだ、この人も。
そう思うとタチが悪い。可愛い顔して、ゲス野郎だな、おい。
「そんな冷たいこと言わないでさー、……げっ、」
「?」
「……おれのヒメに、なんか用?」
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作者名:Stellar | 作成日時:2022年10月23日 12時