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 離れたく、ない。
 ……これから一人になってしまったらまた色々考えてしまいそうだから。不安。


 そんな私の気持ちを悟ってなのかゆきむらさんもゆっくりと力を入れ返してくれる。


「……それなら、良かった」
「っ」


 すっごく、すっごく優しい声。
 嘘偽りはなく、本当に心のそこから安心したように見せた彼の笑顔はとても綺麗。

 隣のエレベーターがもうすぐ迎えに来る。
 その前に、今日のことをもう一度、改めてお礼を言う。


「ありがとうございます。あ、そうだ、ドリンク代……!」


 慌てて財布を出そうと両手が開くように手を離そうとすれば、彼がそれを阻止する。これじゃあ財布はとれない。


「いいって、そんなの」
「だめですよ! ただでさえ二杯目を貰っているのに」
「はぁ……。結構頑固だな、お前」


 クイッと簡単に引き寄せられた距離。他の人とはこのくらいの距離になったが、ゆきむらさんだけそんな間近になったことはなかったのでドキンッ、と胸が高鳴る。

 近い……。
 近いし、近くで見ると、本当に綺麗な顔立ちだ。厚い前髪でもうひとつの瞳を隠すのが勿体ないくらい。美しく綺麗な人だ。


「金とかいいから。……また来いよ。そん時でいいし。お礼は」
「……っ、わかり、ました」
「ん。……あと。名刺。まだ持ってる?」
「え? はい、」


 チン────……


 もう迎えのベルが鳴る。
 一度エレベーターの方を見て、乗っている人が居ないか確認するとゆきむらさんはドアを手で押さえて、私を中へと連れ込んだ。


 自然と離れていく手。
 もう、今宵のひとときが終わってしまう。


「DM。……連絡して。ちゃんと家に着いたかどうか」
「!」
「夜遅いし、暗いから、気をつけろよ」
「は、はいっ、」
「それから……。……ゆきむら。も大切な時間できた。ありがとな」


 ヒラヒラと蝶のように舞った手。それを合図にエレベーターの扉が閉まる。


 ガクンと力が抜けたようにその場で座り込んだ。

 え、え、え、なに。そんなのあり……?? 最後の最後で急にくるじゃん、なに。こんなの、すぐにまた会いたくなっちゃうって……!



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作者名:Stellar | 作成日時:2022年10月23日 12時

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