【完】One Knight / KnightA + Y (ページ22)

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安心ページ22

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「隣、失礼しまーす」

　少しダルそうに。でもちょっとだけ距離を取った。

　長く厚い紫色の前髪で右目が隠れているから表情を読み取るのは難しいが、この人も相当スタイルがいい。前に出てきた五人とはまた系統の違ったカラースーツ。中に着ているブラウスの首元と袖口にフリルがあり、少しゴシック調な服装だ。
　騎士と言うよりかは貴公子……みたいな服装だな。

　じっと彼ばかりを見すぎてしまっていたせいでギョロっと左目が動いた。

「なに。なんか用？」
「え、えっと、お名前を聞いても……？」
「あー……、忘れてた。『ゆきむら。』ね。これ名刺。要らなかったら全然捨てて」
「い、いえ。取っておきます……」

　それだけの会話で終了。今までがぐいぐい来るホストばかりだったからか、逆にこうして一歩引かれるのもちょっとソワソワしてしまう。それを紛らわすように薄くなったカシスオレンジを飲み込む。

「それ、味する？」
「あ、もう若干味薄くなってますね」
「ちゅちゅ」

　ゆきむらさんがその名を口にした時、丁度ここまで案内をしてくれた黒服の男の子が通りかかった。ゆきむらさんに名前を呼ばれたちゅちゅくんは私と視線が合うとパァっと花が咲いたように微笑み近づいてくる。

　こ、この子、本当に男の子……？？美少女の間違いではなく？？？

「はぁい。ゆきくん、どぉしたの？」
「姫の酒、大分薄くなってるから交換おねがい」
「あっ、うんっ！わかったぁ」
「あ、いえ、そんな、お構いなく……！」
「いいって。初めてなんでしょ。金はコッチで出しとくし。……ちゅちゅ」
「うん。同じもの、直ぐにお持ちします」

　ペコりとお辞儀をして、半分ほど残ったそれを引くちゅちゅくん。ものの一〇秒程度で戻ってきたオレンジの男の子は「ごゆっくり」とだけ言い残してその場を立ち去る。

「あの、なんか、すみません……」
「……」
「ありがとうございます。いただきます」
「ん。ゆっくり飲みな」

　気だるげだと思っていたけれど、ちゃんとお客様のこと見ているし、それに、隣に居て安心する。今日初めてこんなにゆっくりできた気がするのだ。

　思えばさっきまでは心臓を動かしてばかりで休む暇はなかった。ずっとノンストップで加速していた心臓がやっと元のスピードに戻ってきた。