【呪術廻戦】家入ちゃんの怠惰な日常【乙骨憂太】

４５話 ページ46

あれから、
何日たっただろうか。


季節は移ろい、庭の草木の葉は既に落ち、
冬らしい空気に包まれている。

時は既に１２月だった。


縁側もまたしんしんと冷え込んでいた。


その縁側に座り込んでノートを取り出す。



沢山の人の文字と、
写真を貼り付けたノートだ。


そのどれもが、既に
“見知らぬ人”と化してしまった
人達の名前だった。



｢ごじょう、さとる｣

そこには先生と印されている。




ーー共にあったはずのその人との思い出を




｢ぜんいん、まき｣

親友、というピンク色の文字をなぞる。




ーー親友だと言ってくれたあの子との会話を




｢いぬまき、とげ｣

名前の隣に書かれた
“しゃけ！”というかわいい筆跡。




ーー共に巫山戯合ったはずのあの体温を




｢ぱんだ｣

添えられた動物園のまえでの写真に触れる。




ーーどの記憶も何一つ思い出せないけど




｢やがまさみち｣

たくさんのぬいぐるみに囲まれた
私と誰かの写真。




ーーどうか、１つくらい思い出せるように



｢かも、のりとし｣

いい人、と書かれた文字の記憶さえない。




ーーこれ以上みんな事を忘れないように




｢おっこつ、ゆうた｣

最期まで、側に居てくれたはずなのに…。




ーー溢れる涙を、零さないように




｢ごじょうさとる、ぜんいんまき、いぬまきとげ、ぱんだ、やがまさみち、かものりとし、おっこつゆうた｣




あの日見たはずの

夕焼け空も

約束も

治したはずの怪我も

何一つ、思い出せないんだよ。


でも、どうしようもなく胸が痛いんだよ。


胸が痛んで苦しいけど、
でもきっとみんなの方が苦しかったはずなんだ。

だから、



その姿を、

その思い出を、

その約束を、

その体温を、

その名前を、

どうかどうか忘れないように。



涙で視界が歪んでも、
嗚咽で声がでなくなっても、

呼ばなくてはいけないと、
もう２度と忘れるものかと、
全身が、本能が、叫んでいるんだ。


昨日みつけた指輪を握りしめる。


憂太くんと、お揃いの。


きっと約束に、

未来に繋がるはずのそれを、

忘れてしまった記憶を抱きしめるように、

強く、強く、握りしめた。



＊＊＊



目が覚めると既に外は
夕焼け色に染まっていた。


足元に、見覚えのないノートと
指輪が転がっている。



『なぁに、これ？』



読めない文字が書き連ねられている。


お姉ちゃんのかな、なんて言って
私は立ち上がった。




今日の夕飯は何だろうか。

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