5 ページ5
ピリリリと目覚まし時計が鳴る。時刻は午前10時半。久しぶりにゆっくり寝られた、とAは嬉しそうに布団を握った。上体を起こして、時計を止め、すぐ隣のカーテンを開ける。昼に近いこの時間。外の光が差し込んで、電気をつける必要が無いほど部屋が明るくなる。
手ぐしで髪を整えて、Aは部屋の扉を開けた。その瞬間、こちら側にトントンが倒れ込んできた。
「わぁ」
漫画のような素晴らしい反応も無く、Aはしばらく立ち止まった。トントンは、日本刀を抱えながら綺麗な寝顔を晒している。
「トントンさん、邪魔です」
入口を塞ぐ大男をつま先でつつくと、パチッとその目が開かれる。最初は人を射殺すような目付きだったが、Aを見るなり柔らかい目付きになった。
「おはよぉ」
トロンとした口調の彼は、眼鏡をかけて立ち上がった。
「跳ねとる。可愛ええなぁ」
ピョコンと跳ねた前髪を梳いて、トントンはそのまま手を頭に置いて撫でた。人に撫でられるのも久しぶりで、Aはなんだかむず痒い気持ちになった。
「朝飯作るから、待っててな」
ニッコリと笑ったトントンは、鼻歌を歌ってキッチンへ向かった。少しの間部屋で立ち止まっていたAは、顎に手を当てて考える。
今、キッチンで旦那面しているのは、昨日までは赤の他人だった奴。しかも殺そうとしてきた。そして、人を殺していた。極道。我々組の時期組長。
(よし、逃げよう)
十分分かった。一緒に居たら命が危ない。
しかし、ご飯は美味しかった。
そんなことを考えていると、トントンが戻ってきて、ご飯ができたと教えてくれた。匂いにつられてリビングへ行くと、2人分の朝食。トーストに目玉焼きが乗っかっている。
「わぁ…美味しそう」
朝は抜くか手軽なものしか食べないA。食欲を唆る見た目のそれに、唾を飲んだ。コトっと目の前に朝らしくコーヒーが置かれる。
「食べよか」
「あっ、はい」
なんで家主みたいな振る舞いをしているんだろう……と疑問に思いつつ、Aはトーストに手をつけた。
正直に言おう。とても美味しかった。シンプルなのに、めちゃくちゃ美味しい。自分では手間がかかるため、絶対にやらないだろう。
「叔父貴もさ、はよ俺に継がせたいらしいんやけど、嫁が居らんと継がせられん言うからさ。ホンマ面倒な親父やで。でも、Aと結婚できるなら悪ないな。叔父貴も気に入るわ。ええ跡継ぎ産んでな?」
「だから……結婚しないって言ってるじゃないですか」
1520人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆず塩(プロフ) - 何回も読み直して部屋が水没するくらい泣きました…最高です!! (3月29日 1時) (レス) @page50 id: 8ae73bc925 (このIDを非表示/違反報告)
けんまおし1016(プロフ) - もうこの作品も最高でした!!!!最後のrbrさんとの話がまたよかったです!!大好きです!!←突然の告白 (2022年12月11日 14時) (レス) @page50 id: 92260459e9 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - ボロッボロに泣きました。とても素敵なお話でした。今までたくさんのお話を読んできましたが、こんなに感動して心を動かされてドキドキしたものはこれが初めてでした。何度も読み返させてもらいます!素敵なお話をありがとうございました!! (2022年9月5日 18時) (レス) @page50 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぺに(プロフ) - 。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。←感動しました。ひよこさん大好き。 (2022年6月17日 23時) (レス) @page50 id: bcadc0cb73 (このIDを非表示/違反報告)
防弾チョッキ(初心者) - なんちゅう殺傷能力の高いお話を書くんや・・・最高ですありがとうございました。自分的に最後のrbrさんとの会話がウヘヘヘヘ←キッモ (2022年5月2日 23時) (レス) @page50 id: 16da95312d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ひよこの子 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年10月10日 17時