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ズタズタに切り裂かれた一枚のキャンパスだった。
広げてみると今の気温には似合わない淡い空色で塗られた紫陽花が繊細かつ上品に描かれていた。
しかし、そんな表現をぶち壊すかのように紙はボロボロで何かのシミも作られており、紙と木のパネルからは若干のアルコールのにおいがした。きっとこのシミは酒かなんかをまかれてしまったんだろう。
またか。
俺はこの光景を始めてみたわけじゃない。今まで何度かあったことだったが、今回は一段と酷かった。
Aは俺と同じような環境。いわゆる、“家庭崩壊”をしている。
昔っから二人共々両親が酷かった。俺はまだ彼女より手を出されることは少ないが、彼女の場合は度が過ぎている。
会うたびに増えていく青あざ、火傷。その傷は今も痕になって白い肌に残っている。
最近はそうゆうことも少なくなっていると思っていたが、彼女が美術系の学校に行きたいのを知ってか、こうやって作品を壊していく。
一度、最優秀賞を勝ち取り、推薦かなんかが来たんかこのままやったら学費がまずいとか思ったんやろうな。人の親に言うことではあらへんけど、ほんま、頭が弱い奴らやで。
『シッマ〜?何してるのー?ちょっと重たいから運ぶの手伝って〜』
そんなことを考えていると台所の方から俺を呼ぶ声がした。俺は再び布をキャンパスにかけて元に戻し、台所へと向かう。
『お、きたきた。じゃあそこの大きめのお皿取ってくれる?』
kn「呼んだん、Aやろ…ほい」
『ありがと』
そんな会話をし、ふと外を見ると日が落ちてき始めていた。な
kn「……今日はお袋さんら、帰ってくんの?」
『んー…今日は帰ってこないよ、仕事だって。噓、だと思うけどね』
kn「ほーん…ほな、今から蛍でも見に行こか。この辺でもあったんよ。前に大先生とゾムで見つけてん」
『ほんと?だったら新しいアイデア浮かぶかもしれないし、行きたいな。』
そんな会話をしながら、スイカを運び、窓を開けてしゃくりと食べる。夏の風も入り、飾っている風鈴がチリンと鳴いた。
俺がAのためにできることなんか数少ない。この環境を改善なんてできるとも思ってない。でも、少し。少しでもAが笑顔になってくれることができるなら俺は率先して動く。
『…ん?何こっち見てるの?なんかついてる?』
せめてでもいいから、俺の横では楽に笑っていてくれ。
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作者名:ひよこの子 x他8人 | 作者ホームページ:
作成日時:2022年8月6日 18時