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「たのしかったね」
「うん」
それから、彼に連れられて
いろいろなところを巡った。
初めて行ったゲームセンターでは
彼がぬいぐるみを取ってくれて。
今その子を抱きしめながら歩いてるだけで
気持ちがふわふわする。
迎えが来る駅に戻るともう日は落ちていて
少し気温が下がったのを気にしてか
光成くんは私の肩に自分の上着を掛けてくれた。
なんか、…わたし。
「……Aちゃん？」
「え…っ」
「すっごい歩くの遅くなったから、大丈夫かなって」
「あ…ご、ごめん。なんでもないの」
無意識に落ちていた歩くスピード。
彼に声を掛けられて自覚した。
誤魔化して彼の横に戻るけど
不思議そうな顔をされる。
「よかったら、さ…また会ってくれないかな」
「え？」
「Aちゃん、夏祭りとか行ったことある？」
「小さいときに、ちょっとだけ」
「ふふ、じゃあ俺と行こう、今年」
「行っても、いいの？」
「うん。Aちゃんと行きたい」
約束ね、と差し出された小指。
自分のをそれに絡めると光成くんが目を細める。
少し先に見えた青木に、彼は手を振って
私を車の前までちゃんと送り届けていると
自分も迎えが来ていると
反対側に走って行ってしまった。
「……A様どうでしたか？
檜山くん、いい人でしょう？」
「っ……うん」
返事もそこそこに、慌てて窓の外を見る。
ほっぺに自分の手を当てるとどこか熱くて
今考えてることに対して
どうしたらいいか分からない。
だって、初めて。
初めて、帰りたくないって思った。
もっと一緒に居たいって、思った。
「光成……くん」
名前を口に出すだけでも恥ずかしいのに
何度も呼びたくなって。
なんだか顔が見えないのが、寂しくて。
ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめると
何故か、私の胸が苦しくなった。
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作者名：むう
| 作成日時：2021年2月23日 21時
