８１ ページ38
「之ばかりは性分だから、もう矯正効かないよ」
Aはそう言って、残念だけど、と苦笑を添える。
本人が残念だと思って居ると言うよりは、ひとらんらんに向けて言った言葉だった。
「そんじゃ、もうちょっと飛ぼうか。何かあれば直ぐ言ってね」
ハンドルを、慣れた手つきで握り直す。
結局自分の事は棚上げしたそんな言葉と共に、雲の合間を滑って行った。
.
「ねェ」
Aは、空の旅を続けて居たその最中に、ぽつんと、一つ雲のように、呼びかけた。
「何？」
「君さァ、スリルとか、得意な方？」
唐突にそんな事を訊くものだから、ひとらんらんは発言の真意を掴めず首を一度捻ったが、兎角質問に答えようと頭を回した。
「……まあ、或る程度は耐性ある方だとは思うけど」
『イーグル』自体、大抵飛行機よりは酔いが少ない、とされて居る。
それは運転手の質、ひいてはそれによる鳥の飛び方などに大きく左右されるのだが、＿＿少なくともAの腕による運転の上では＿＿ひとらんらんに酔いが来る気配はない。
抑も、武芸百般を修めたひとらんらんは、その武道の修行の中で当然、平衡感覚も鍛えられている。その為に、
その様な人間が、多少のイレギュラーな動きの為にへばる様な、柔な三半規管を持って居る訳がない。発達して居ながらも、強靭な物なのである。
「ま、そうだよね」
想定済みの答えだったのか、大して色の変わらない声でそう返って来た。
増々その答が何かあるのか、ひとらんらんは首を傾げざるを得ない。
何故だろう、気の所為か。
何となくだが、妙に＿＿
(……嫌な予感がするんだけど)
ひとらんらんの胸奥のその様な予感など露知らずか、Aはぐいっ、と口角を上げる。
半身振り返る様に背後に、さらりと流し目を送る。
「出る前にさ、ちょっと話しただろ？ クロの話」
＿＿『クロ』。
ひとらんらんは、それが何を指すのか判らなかった。
それが、この界隈の隠語、略語に当るモノなのかもしれないし、ひとらんらんの全く知らない物事を指す言葉なのかもしれない。
そしてそれは将又、同様ひとらんらんの知らぬ、『誰か』の事なのかもしれない。
ひとらんらんにそれを判別つける事は、今の段階においては不可能だ。
「今じゃ、ちょっとした遊び感覚なんだよ。大丈夫、君は唯、
さらっ、と風が吹いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遥彼方 - 。負け犬団長さん» コメント有難うございます！その辺りは本当に書いていて楽しかったので、そう言って頂けて感涙です。是非ゆっくりと楽しんでらして下さい〜 (2020年3月2日 1時) (
レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
。負け犬団長(プロフ) - 主ちゃんの怒ったシーンの描写が普段穏やかな主ちゃんとのギャップ？で読んでいてとでもドキドキしました！それと主ちゃんの怒りがひと段落したところでの主ちゃんの空への思いが文章からあふれていてとてもきれいです！ (2020年3月1日 22時) (レス) id: 10fa209271 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 瑠奈さん» コメント有難うございます！前作では大変お世話になりました。勿体無い程のご評価に舞い踊る程の喜びを感じております。此方こそ有難うございます！先は長いですが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2019年12月7日 16時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
瑠奈 - 蒼から来ました〜前作も感動し、今作の面白さ、読みやすさに感激している今日この頃です。ありがとうございます (2019年12月7日 14時) (レス) id: 8b40ad9508 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 桜舞姫・蝶月姫さん» 有難うございます！続編移行に注力します……少し（？）お待ちくださいませ……！ (2019年12月7日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遥彼方 | 作成日時：2019年11月13日 0時
