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Aは、目の前を、蝶が舞う様にひらひら、風に翻弄されては落ちて行く薄桃色の花弁を見詰めていた。


が、徐にするっと手を伸ばして、空を掴む。


行き成りの事にひとらんらんは驚いたのだが、黒手袋の中には春風の名残より他になく、それを確認するAを見て、


(嗚呼)


とやりたい事を察して、思わずくす、と笑みを零した。


マスク越しとは言えその笑いは隠せるものでも無かったから、Aは邪気のない顔で「何さ」と膨れる。


「ふふ、下手だなと思って」


「初めてなんだから、大目に見てよ」


「怒ってねえよ」


寧ろその、無邪気な思い付きの幼さと言ったら。
……とまでは、ひとらんらんは言わなかった。

流石に機嫌を悪くするかもしれない。

まあ、Aなのだから、頬を脹れさせる位で流すのだろうが。



「ひらひらするし、秒速5cmとからしいから、案外難しいだろ」


ひとらんらんのその口ぶりに、Aは少し目を瞬かせた。
Aのその視線にひとらんらんは気付いて、薄く笑む。


ひら、ひら、ひら。


どれもこれも目移りしそうな程に、白い桃色の花弁が、(くう)を舞っている。


それよりは白い手袋に包んだひとらんらんの手が、さっと中空に伸びて、指先を微かに動かし、何かを確かに、人差し指と中指の先の間に挟んだ。


本来なら、その不規則な動きをする花弁を、然も指で掴む事など非常に困難を極める。

だが、ひとらんらんは幼い頃から桜と言うのに慣れていたし、武道を修めて居る為に動体視力や筋肉の動かす速さが格別だ。



「はい」


その様子を見入るように見つめていたAは、自らの方に差し出された手の方に、片手を若干丸めて椀のようにして差し出した。

その、黒い手袋の上に、小さな丸い花弁がふわりと落ちる。


「有難う……凄いね」


「結構昔やってたからね。俺の処じゃ、桜はこの時期凄く咲いて、皆で観に行く位だったから」


へェ、と感心したような声で頷くA。「楽しそう」


「うん。大人は酒飲んで。夜は『夜桜』って言ってさ。昼とは違うんだよ、全然」


ふと、ひとらんらんは思う。
昔何度も見に行った、桜並木。
恐らく今観に行こうと、道も憶えて居るだろうけれど。


(故郷(むこう)の桜、か)




__それを見に行く事は、出来ない。




じっと黙ってしまったひとらんらんの顔を、Aはやや見上げる様にして覗き込む。
その柔く澄んだ瞳に、ひとらんらんは、はッ、と現実に引き戻される。

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遥彼方 - 。負け犬団長さん» コメント有難うございます!その辺りは本当に書いていて楽しかったので、そう言って頂けて感涙です。是非ゆっくりと楽しんでらして下さい〜 (2020年3月2日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
。負け犬団長(プロフ) - 主ちゃんの怒ったシーンの描写が普段穏やかな主ちゃんとのギャップ?で読んでいてとでもドキドキしました!それと主ちゃんの怒りがひと段落したところでの主ちゃんの空への思いが文章からあふれていてとてもきれいです! (2020年3月1日 22時) (レス) id: 10fa209271 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 瑠奈さん» コメント有難うございます!前作では大変お世話になりました。勿体無い程のご評価に舞い踊る程の喜びを感じております。此方こそ有難うございます!先は長いですが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2019年12月7日 16時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
瑠奈 - 蒼から来ました〜前作も感動し、今作の面白さ、読みやすさに感激している今日この頃です。ありがとうございます (2019年12月7日 14時) (レス) id: 8b40ad9508 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 桜舞姫・蝶月姫さん» 有難うございます!続編移行に注力します……少し(?)お待ちくださいませ……! (2019年12月7日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:遥彼方 | 作成日時:2019年11月13日 0時

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