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慣れないAの事を慮って、少し休憩を挟みながらも、目的地へと馬は二人を乗せて駆けた。
頬を切る風は、ふわりと香しい。
何度かひとらんらんは「疲れないか」とか思慮したのだが、Aは大丈夫だと笑うばかりだった。
それが心底の物なのかひとらんらんに遠慮したのか、ひとらんらんに確かめる術も無いが、その笑顔に無理はない、と思いたい。
余り突っ込んで聞くのも体裁が悪いので、「そう？」とだけ返した。
「もうそろそろ着くよ」
真直ぐに駆ける先には、小高い丘陵がある。
馬は柔い若草に土を踏みしだき、一定のリズムを刻みながら先へ駆け、ゆっくりとその勾配を登り始めた。
Aは、段々と開けて行く景色に体を前にのめらせる。
「落ちるよ」とひとらんらんは一応言ったのだが、流石のバランス感覚なのか、別段落ちる様子はない。まあ、手綱を握る腕の間にあるAを、ひとらんらんが支えられぬ筈は無いのだが。
尚、注意は聞こえた様子はない。
ゆっくりと空の面積が視界に拡がり、ふと、突如として＿＿視界が開ける。
Aは、其処に拡がった景色に、はッ、と息を呑んだ。
呼吸するのを忘れた様に、目の前に広がる光景を、食い入るように見つめている。
.
＿＿＿小高い丘陵の上には、若草に、淡い色の花が小ぢんまりと咲き乱れていた。
その少し先に何より目を引くのは、限りなく白に近い薄桃の色をした大木。
「＿＿＿『桜』……？」
Aは殆ど無意識の儘、薄く呟いた。
風は色とりどりの香りに色づけられたのではないかと思う程に、新鮮な香りを運ぶ。
その風の中に、薄く引きのばされて融ける様な、声で。
「……知ってるんだ、『桜』」
ひとらんらんは、その声を、距離の御蔭で正確に聞き取った。そして、その木の名称がAの口から出て来たことに、少なからず驚いた。
「こっちじゃ、殆ど誰も知らないんだけど」
馬は速度を減殺し、軈て足を止めた。
自分が先に下りてから、ひとらんらんはAに手を差し出す。
Aがその手に手を重ねた瞬間、馬に乗る時と同様に、ふわりと体が浮き上がる。
とす、と、編み上げのブーツが、若草を踏んだ。
「馬、繋がなくて良いの？」
「嗚呼。外道丸は大人しいから、必要ないとは思うけど」
馬を見遣りながら言うひとらんらんに、「『外道丸』って言うんだ、この子」と、Aは風の様に穏やかに微笑んだ。「強そう」
「ふふ」ひとらんらんもつられて笑う。
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遥彼方 - 。負け犬団長さん» コメント有難うございます！その辺りは本当に書いていて楽しかったので、そう言って頂けて感涙です。是非ゆっくりと楽しんでらして下さい〜 (2020年3月2日 1時) (
レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
。負け犬団長(プロフ) - 主ちゃんの怒ったシーンの描写が普段穏やかな主ちゃんとのギャップ？で読んでいてとでもドキドキしました！それと主ちゃんの怒りがひと段落したところでの主ちゃんの空への思いが文章からあふれていてとてもきれいです！ (2020年3月1日 22時) (レス) id: 10fa209271 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 瑠奈さん» コメント有難うございます！前作では大変お世話になりました。勿体無い程のご評価に舞い踊る程の喜びを感じております。此方こそ有難うございます！先は長いですが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2019年12月7日 16時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
瑠奈 - 蒼から来ました〜前作も感動し、今作の面白さ、読みやすさに感激している今日この頃です。ありがとうございます (2019年12月7日 14時) (レス) id: 8b40ad9508 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 桜舞姫・蝶月姫さん» 有難うございます！続編移行に注力します……少し（？）お待ちくださいませ……！ (2019年12月7日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2019年11月13日 0時
