５７ ページ14
＿＿。
「……はぁあー……」
事の顛末を簡潔かつ詳細に聴いたひとらんらんは、盛大に溜息に似た息を吐いてから、「莫迦じゃないの？」と、呆れ返った顔を見せた。
「それは如何考えても、コネちゃん達が悪いでしょ」
「ま、そうやろな」
と、トントンは同意を示しつつも、「けどまあ、」と逆接で繋いで、ちらりと元凶の二人を見遣った。
「彼奴があそこまで怒るんは＿＿初めて見たわ」
確かに、ひとらんらんも、普段のAをばかり見て来た。と言うか、城塞の人間は先ず、その姿しか見ていない。
誰よりもAに近い場所で居たフローラでさえも、Aの激昂ぶりには惶惑して居たのが、その証左であった。
どの様な人の前であろうと、常に穏やかで、親しく、柔らかな口調や態度で接するAの怒りようには、未だに現場に居り、それを目の当たりにした筈の人間でさえ、信じられぬ所がある。
「……普段穏やかな人間程、怒ると手が付けられないからね」
ひとらんらんは、唯一言、そう言った。
水は、時に姿を変え、形を変え、人に恵みを齎す。
だが、それが一度堰を切れば、荒々しく牙を剥き、津波となり洪水となり、全てを呑み込む。
ひとらんらんには、Aの憤激ぶりを耳伝いに聴いただけだったが、それが正に水の様に思えた。
「之は如何考えても二人が悪いよ。如何落とし前つけるのかは知らねェけど、筋通して片付けろよ、今回の件は」
ひとらんらんはそう言って、書記長室を颯爽と＿＿と言うよりはさっさと＿＿出て行った。
少し、行きたい処が出来たのである。
ひとらんらんは或る場所を目指しながらも、
(……？)
と、自分の先程の行動に疑問を持った。
発語した際に感じて居た、鈍い違和感。
だがその違和感の正体を、はっきりと言語化する事が出来ず、掴む事が出来ない。
ひとらんらんは、その事にやや不快感に似た感覚を覚えた。
何と無く胸に痞えがあり、然しそれは、例えば古い痣、背中の古傷の様に、ぼんやりとしている。……
廊下の上に歩みがやや遅くなったのに気が付いて、ひとらんらんは小さく息を吐き、回って居た思考を無理に別の方向に回した。
その奇妙な違和感の正体を突き止めるのは後で良い。
と、頭の方に使って居た力を脚の方に戻し、脚の回転率を上げた。
軍靴の音が、かつかつと規則的に響く。
何故自分でも其処に行きたいのか、解って居ない。
だが、ひとらんらんは何故か、其処に足を向けていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遥彼方 - 。負け犬団長さん» コメント有難うございます！その辺りは本当に書いていて楽しかったので、そう言って頂けて感涙です。是非ゆっくりと楽しんでらして下さい〜 (2020年3月2日 1時) (
レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
。負け犬団長(プロフ) - 主ちゃんの怒ったシーンの描写が普段穏やかな主ちゃんとのギャップ？で読んでいてとでもドキドキしました！それと主ちゃんの怒りがひと段落したところでの主ちゃんの空への思いが文章からあふれていてとてもきれいです！ (2020年3月1日 22時) (レス) id: 10fa209271 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 瑠奈さん» コメント有難うございます！前作では大変お世話になりました。勿体無い程のご評価に舞い踊る程の喜びを感じております。此方こそ有難うございます！先は長いですが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2019年12月7日 16時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
瑠奈 - 蒼から来ました〜前作も感動し、今作の面白さ、読みやすさに感激している今日この頃です。ありがとうございます (2019年12月7日 14時) (レス) id: 8b40ad9508 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 桜舞姫・蝶月姫さん» 有難うございます！続編移行に注力します……少し（？）お待ちくださいませ……！ (2019年12月7日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遥彼方 | 作成日時：2019年11月13日 0時
