４ ページ7
「之から見廻りなんです」
「嗚呼、そうか、そんな時間か。御免ね、引き留めて」
少し眉を下げるAに、二人はいいえ！ と揃って
「元帥も御執務」
「嗚呼」
ひらひら、Aは手を振り、二人に背を向ける。二人はAに見えないと解ってはいたが、軽い敬礼をする。『頑張って下さい』の言葉の代わりだった。
.
.
.
「…………」
何処か冷たささえあるほどの無表情で、Aは廊下を歩いた。
先程まで部下と話していたあの柔らかな雰囲気など、何処にもなかったかのようだ。
(……今日は無駄に痛む日か)
足を止めて壁際に寄った。
何の事は無い、過度なストレスを感じて居る訳でも無いし、況して器官を悪くしたことも無いと言うのに。
Aは溜息を吐きつつ、痛みに耐える。
いつもの事とは言え、大事な瞬間に『之』が来て指が痺れでもしたら。
……Aは考えるだけで恐ろしくなった。
一瞬で収まり、指先に痺れが来るその前に再び再発する痛み。
痛みをあやす様に、次は拳で心臓部分をノックする。
(収まれ、之から行く所あるんだから)
紅いマフラーの先端を思い浮かべる。余計心臓の痛みが押し寄せるのは気の所為か。
Aは無表情の中に苦悶の色を一滴零した。引き摺る痛みに眉を顰める。
一瞬で引いて、再び寄せる、波のようなその痛みは、いつもよりも随分と痛む時間も周期も長引いて、少しAを苛つかせた。
痛みの波が暫くして落ち着いてから、Aは再び赤マフラーの彼の空間、『書記長室』を目指し直す。
編み上げのブーツを規則正しいリズムで廊下に踏み下ろしつつ、窓の向こう、空を見上げた。
そうしながら、いつものように来るはずの指先の痺れが来ない事に、首を傾げたのだった。
.
.
.
「書記長、入るよ」
返事が聞こえてから、Aは扉を開ける。
相も変わらずの顔色で書類から目を離さない、黒髪と赤目、いつもの紅マフラーの男に、Aはひっそり苦笑を零した。
「お忙しい処御免ね。何の用かな」
「嗚呼、済まん。大先生ン処の書類ン中挟まっとったみたいでな、期限相当ヤバいねんけど」
そう言って渡された書類にAはさっと目を通す。明後日までと言う期限に、苦笑した。
彼の事だ、嫌々仕事に着手した時に見つけたのだろう。何だかんだ真面目に仕事をする奴等の中に混ざって居たのなら、こうはならない。とAは思う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 165人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遥彼方 - saeniさん» 有難うございます！すぐに行きます。質問の方ですが、チャット行為に当たってもまずいのでHPを作りました。お手数おかけしますが、此方でお待ちしております。https://uranai.nosv.org/u.php/hp/qanda/ (2022年3月20日 18時) (
レス) id: db6f42df22 (このIDを非表示/違反報告)
saeni(プロフ) - 返信ありがとうございます。簡単にではございますが、ひとつ作品を執筆致しました。普段はd!等でなくオリジナルを執筆しておりますので、キャラに違いがあったら申し訳ありません…!!遥彼方様はどのようにして言葉や医療系の語を学ばれたのですか？教えて頂きたいです。 (2022年3月20日 4時) (レス) id: 5899b2fc5f (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - saeniさん» コメント有難うございます。お褒め頂き大変光栄でございます。私も勉強中でして、貴方様の作品も宜しければ是非拝読したいです。小説の事ですが、未熟の身でお話しできることもそうありませんでしょうが、どうぞ気軽にお聞きください。 (2022年3月20日 2時) (レス) id: db6f42df22 (このIDを非表示/違反報告)
saeni(プロフ) - 初めまして。コメント失礼致します。遥彼方様の小説本当に好きです。自分も文字を書く身なのですが、遥彼方様のような素敵な文章を書かれる方に出会えて幸せです。これからも応援しております。もし宜しければ小説について色々お話お聞きしたいです。 (2022年3月9日 9時) (レス) id: 9e65708fc2 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - らいはいさん» コメント有難うございます、返信遅れて申し訳ありません。貴重なご意見を誠に有難う御座います。余り言葉を固くしたつもりはありませんでしたが、内容の事は特に私も力不足を感じている次第です。今後の執筆の参考にさせて戴きます、お教え下さり有難う御座いました (2020年2月21日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遥彼方 | 作成日時：2019年10月15日 2時
