[wrwrd]白に包まる

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初春。
時折注ぐ日差しの中に、春の綻ぶのを感じる頃。


ひとらんらんは珍しく、街を歩いていた。


日差しは妙に明るい灰の雲の合間から柔らかに降り注いでは行くけれども、矢張り寒い物は寒い、街行く人は皆して体を縮こまらせ、少しの風にも身を固くして歩く。


ひとらんらんはひゅうと吹き荒ぶ風を一身に受けながら、


(雪、降るかな)


と思った。
移ろい易い天候の場所の生まれの故か、妙にそう言う天候の変化の機敏に鋭かった。


(……用事さっさと済まして帰るか。彼奴ら凍えちまうと駄目だ)


図らずもひとらんらんの瞼の裏に、心を注ぐ小動物達の姿が浮かぶ。
飼育スペースは基本的に外気温の変化を其の儘受けてしまうので、余りに気温や天候の変化が甚だしい場合、温室の一角の小さなスペースに移すのが習わしである。


.



「あらいらっしゃい！ 嗚呼、いつものね」


目当ての贔屓の店に付くと、人の好さげな笑顔で小母さんがひとらんらんを出迎える。
ひとらんらんが幹部であることは、国民放送に出ぬ訳では無いので小母さんとて知らぬ筈は無いのだが、客の一人として接してくれる辺りが非常に有難い。


「うん。……何か御勧めとかは無いかな」


「そうね、……入ったのはカスミソウが多いかしらね。後は……嗚呼、そう！」


何かを思い出したように小母さんはぱっと華やいだ笑顔になり、「ちょっと待ってて頂戴な」と急ぎ足に店の奥に消える。


その慌しい程の背を、ひとらんらんは半唖然と見送った。


(……まああの人、来たらいつもああだから)


若き頃はきっとおてんばだったに違いない、とひとらんらんは勝手に思う。恐らく間違ってはいないだろう。


店の奥から、小母さんは何か小さな鉢を丁寧に抱えて戻って来た。
足取りはそわそわと、宛ら新たな噂を耳にした後の中年女性だが、鉢を抱える手は確かに確りとそれを抱きかかえている。


「はいこれ、珍しいんだッて、東の物らしいんだけど、知らないかしら？」


「え、……」


差し出された小さな鉢に植わった、小さな花。
それにひとらんらんは眼を見開いた。

こんな所で御目に掛れるとは、思ってさえなかったのだ。



「……あら、違ったかしら」
「福寿草」


少し動きの止まったひとらんらんに、首を傾げる小母さん。その言葉が言われるに被さる様に、ひとらんらんはその花の名を口にした。


小さな黄色い花。東では縁起の良いと言われるその花は、福寿草と言う。
初春頃の花である。

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