ひとめぼれ

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「ごめ、なさ・・・」


重岡さんを傷付けてるのは、俺やのに。


なんで、そないに、優しいん。


それは声にならへん。


「次、いつにする？
どこ行く？食べたいものある？」


「へ？」


いきなし、話、飛んだよな？


「ほら、脚本の直し終わったら。
いや、もっと前に会いたい。
神山くん、次のオフいつ？
オフやなくても。
早めに仕事終わる日ある？」


怒涛の質問に、何一つ返されへん。


「えっと、舞台終わったんで、
２週間近くオフです。
お正月明けまで」


「ほんまにっ？」


「ええ、まあ、はい」


休みやから、考えてまう時間があり過ぎて。

困ってるねん。


「まじか！」


「あ、もう今日で３日目なんで、
あと１０日ですけど」


「明日、会える？
明後日も、その次も」


「え、重岡さん、お休みなんですか？」


「ううん。
仕事終わったら会いに行ってもええ？」


「・・・それは、」


「３日に１回は俺には無理やった。ごめん」


俺も、そうやねん。

あんなに寂しいなんて。


「・・・毎日、は、無理です」


どんどん、甘えたくなるから。


一番深いとこまで、すぐに到達されそうやから。


「・・・うん。
飛ばし過ぎてごめん。
気持ちの抑え方ってむずいな」


照れくさそうに笑う、重岡さんの表情に、
胸が掴まれたみたいに、苦しい。


こういうん、


恋のせい、


そう言う人もおるんかもしらん。


「重岡さん、あの・・・」


漆黒の深い瞳に見つめられると、
何を話したいんか、分からへんなってしまう。

黙り込んだ俺に。


「そんな顔されたら、困る」


重岡さんは、苦しげな顔した。


「ど、んな、顔ですか？」


「期待してもええって、勘違いしたくなるような、そんな顔」


それは、間違いやない。


新しい恋はもう、始まってる。


先に走り出した心に、

言葉が追いつかへんだけ。


「重岡さ、・・・」


眩しい、ライトの波。


また一台、空車のタクシーがやって来る。


俺の視線をそれから遮るように。


重岡さんが、俺に覆い被さる。


「言葉なんか、いらんから」


重岡さんは、そう呟いて、

くしゃっと、音聞こえそうな笑顔を見せて。


ほんの、一瞬だけ、唇が、触れた・・・

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