ひとめぼれ

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落ち込んで、
俺が駆け寄るなり、


「席ブッキングですか？
じゃあ、俺、帰ります」


あっさり。


「待って。
別んとこ行こ」


「別んとこって、どこもいっぱいやと思いますけど・・・」


「とりあえず、車、戻ろ」


この隙に帰られたら嫌やから。


神山くんの派手な水色のスタジャンの袖口を掴んで引っ張ってく。


派手派手なオレンジ色のニット帽。

スニーカーもド派手。


今日は特別可愛ええカッコしてるように見えるねんけど。


デートやから気合い入れてくれたんかなって浮かれとったけど、
帰る、言うてまうあたり。

それは単なる俺の自惚れ、やってんなあ。



神山くんを助手席に押し込んで、
大慌てで、運転席に戻る。

店予約出来てへんとか、痛恨のミス。

超ダサいよなあ。


困った時の濱田頼み。


慌てて、行きつけの喫茶店に電話する。


ここは脚本家の桐山さんに連れてってもろたんが最初。


マスターの濱ちゃんは、
桐山さんの幼馴染らしいねんけど、

人類で一番ええヤツなんちゃうか？


俺も仲良なって、今じゃ常連。


おまけに、桐山さんと、
うちのチーフマネージャーの淳太って、
大学の先輩後輩らしいねん。


ちなみに淳太が先輩な。


つまり、みんなの行きつけの店。


都心からは、ちょっと離れたところにあるねんけどな。


ちょうどこの辺りやねんて。


電話繋がった。

ありがたや。


「なんやしげ、どしたん」


いつも通りの、濱ちゃんの穏やかな声。


「今日、店二人空いとる？」


「今日は定休日やけどな、照史来てるねん。
ええよ、二人なら。
その焦り具合、彼女か？」


「恩にきる！
濱ちゃん、最高やわ。
そんじゃ、３０分ぐらいで着くから頼むな」


「はいよ。
いつもの用意しとくわ」


電話切った後、

安堵のあまり、
めっちゃでっかいため息出たわ。


「神山くんに似合う、
おしゃれ〜な店ちゃうけど、ええ？」


「重岡さんの行きつけですか？」


「そう。
カフェっていうか、
昔ながらの喫茶店て雰囲気の店やねんけど。
ナポリタンとクレープがばり美味いねん」


「ナポリタンとクレープ・・・」


神山くんの顔が輝いてる。


「決まりやな」

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