ひとめぼれ

８ ページ19

二人がなにかの拍子でうまくいかへんなったら。


俺のとこ、来てくれるかもしれん、


そんな微かな望みに、縋ってまう。


とことん、あほや・・・



神山智洋流星、この前はあんな事言うてごめんね。忘れてくれてええよ。


神山智洋俺な、明日の千秋楽の後、重岡さんに誘われてるねん。デート、一回くらい行ってあげてもええかなって思って。あの人の事、俺、勘違いしてたみたい。誰より真面目な熱い人やった。芝居に対しては暑苦しいぐらい。
あの人と、ちゃんと向き合うてみよかなって。
やから、流星も俺の事気にせんでええから。


神山智洋望くんとこ行ってあげて。きっと待ってる。


送信を押す。


涙が溢れて、止まらへん。


無理矢理にでも、断ち切らんと、

俺、ここから一歩も、進まれへん。


悪いけど、重岡さんのこと、ダシにしてしもた。


向き合う覚悟なんか、ちっともないくせにさ。


でもそうでも言わんと、

流星、俺の存在、重荷に感じてまうやろうから・・・


涙で滲む窓の向こう。

俺に向かって、笑顔で手を振ってる重岡さんの姿が見えた。


今日もランニング中みたいで、
ジャージ姿。

しかもオシャレなんとは程遠い、
中学高校ん時の体操服みたいなん。


人気俳優とは思われへん、気取りのなさ。


慌てて、涙を拭う俺に。


「待っ、とっ、て！」


おっきな口開けて、口パクで伝えてくる。


そんで、そのジャージ姿のまんまで、
お洒落な店内に入って来るねんもん。


呆気に取られとるうちに、

さっと注文したカフェオレ持って、
席、がらがらやのに、

当然のように、俺の隣に来てしもた。


とっとと帰ろ。


重岡さんには、カッコ悪いところばっか見られてる。

慌てて、食べかけのドーナツ、詰め込む。


「そんな急いで食べたら、あかんやん」


案の定、詰まって、重岡さんに、背中トントンされてもうてる。


「またおんなじコース走ってたら、会えるかなぁって。
ほしたら、ほんまに会えた！運命やな！」


「うちの近所走ってたら、
結構な確率で会える思います」

９→←７

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す