検索窓
今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:34,369 hit

二二章『未来(あす)へ』 ページ37

*

「う……ん……」

意識が戻ってくると同時に。
ふわりと、体が浮遊する感覚がした。
辺りには、館の周りに張られていたのと同じ、大鵬の結界の神気。
ゆっくりと目を開ける。
そこは、茜色の光の世界だった。
私は一人、その世界を漂っていた。

すぐ傍に大鵬の気配を感じるのに。……あの人の姿はない。

(……大鵬。何処?)

まどろみから目覚めたばかりの体が重い。
口を開く前に頭の中で、私の愛する人を想う。

すると。

『――A。聞こえるか』

直接頭に響いた、低く穏やかな声音。
――私はこの声を知っている。

「大鵬!?」

大好きな人の声につられて。
うすぼんやりとした意識がはっきりと目を覚ます。

『ははは! 目覚めたか!!』

「うん。……でも大鵬はどこにいるの!?」

茜色の光のなか、いくら目を凝らしても。
愛しい人の姿は見えない。

『何を言っていのだ?』

「え?」

明るく軽い声音に、思わず目をしばたたく。

『この空間そのものが我自身が作り出した世界。……我そのものだ』

「どういうこと?」

この光の世界が大鵬そのもの。

(……なら、大鵬の姿はどこに?)

私はきょろきょろと辺りを見回す。
でも。
やっぱり彼はいない。

『言っただろう? Aに、もう一つ未来を見せてやろう、と』

優しい声が辺りにこだました。
茜色の光が黄金に輝く。
そこには……。


先ほど見せられた人の営み。

(……それだけじゃない?)

よく目を凝らしてみる。

田畑を耕す人がいる。
鍬を持つその人のそばを、金色の『何かが』ふよふよと飛び交っていた。
人は気づいていないけれど。

(――神様だ)

私にはわかる。
それは、その田畑に宿る神様の気だって。
……人が田んぼを想う気持ちに応えて。
大地から、生まれたての神様の魄(はく)が舞い上がる。


――景色が切り替わる。

人の子が雨降りの中遊んでいる。
その周りの木々に宿る、神様が、愛しそうにその様子を見ている。
さらに、その木の陰に隠れて、河童の子どもがキラキラした目でその様子を見つめてた。


(……そっか)

私は何故、大鵬がこの景色を見せてくれたのかわかった気がした。

▼→←▼



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (63 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
53人がお気に入り
設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。