検索窓
今日:47 hit、昨日:0 hit、合計:34,365 hit

一八章『告白』 ページ21

*
「――」

雲進に乗ったまま、迷い家……大鵬達とともに暮らしてきた山を見下ろした私は絶句していた。
時刻はまだ午前中。
太陽は空の真ん中よりも東よりに煌々と輝いていた。
抜けるような青空。
そこに向かって、大量の白と黒の混じった灰色の煙が立ち上っていた。

「あいつら……火矢を放ちやがったんだ」

舌打ちしながら、青蘭が呟いた。

「火……矢……」

その言葉の意味することと、眼下に広がる光景を頭の中で一致させるのにしばらく時間がかかった。
私はただ茫然として。……今朝方までは清涼な空気の流れていた山から立ち上る、底知れぬ負の気を感じていた。
憎しみ、恐れ、殺意。――どれも暗い人の感情だった。
重苦しくて、心の臓がきゅっと掴まれてつぶされる感覚がした。
それが山に住む神様方に向けられたものだと、信じたくない自分がいた。

「もし、火が放たれても、朱ノ姫なら……」

私はかすれた声を漏らす。
……そうだ。朱ノ姫は火の神様。
自らを『火喰い』だといっていた。

(あの人なら、人が放った火を抑えることだってできるはず……)

そう考えるに至って。
やっと。
私は神様方の山が燃えている意味を理解した。

「――あ、え……うそ……」

私はその意味を信じたくなかった。

「朱は……。間に合わなかったみたいだな」

青蘭も、朱ノ姫がどうなったのか……明言を避けて、真下で広がる火の手を凝視していた。
これだけの火が山を侵す……それは、火を制御する力を持つものが、もうこの世にいないということ。

一度目をつぶった。
風の流れが速い。
風上にいるせいで、妙に煙の臭いが鼻につく。
でも。
あの優しくて面倒見のいい火の神様の気配は、微塵も。
ほんの一かけらも。
もう、感じることはできなかった。

――朱ノ姫は亡くなった。……その事実だけ。
嫌というほど突きつけられた。


*
「どうする?」

「え?」

私が目をつぶったまま微動だにしないから。
しびれを切らした青蘭が聞いてきた。
それでも、呆けた返事しかできずにいると。

「……今ならまだ、逃げることができる」

青蘭が守り役として、現実を突きつけてきた。

「館に戻るとお前は言った。だが、もう館も火の手に包まれているだろう」

「……そう、だね」

私は朱ノ姫の気配だけじゃなくて。
いつも館を包んでいた大鵬の結界が消えているのも感じていた。

▼→←▼



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (63 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
53人がお気に入り
設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。