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湧き水が辺りにたまって、雨上りの水溜りみたいな、小さな池ができつつあった。
どうやら先客がいたようで。
小さな茶色の翼をもった野鳥が、水をついばんでいる。

「お邪魔しまーす」

小声で言ってから。
私は小さな池にひょうたんの吸い口を浸した。


*
無事に水を汲み終わって。
私は来た道を急ぎ足で戻った。
お腹がすいていたから、早く朱ノ姫のお結びを食べたかったし。
青蘭も待っているだろうから。

「はぁ、はぁ」

そんなに歩いてないのに、急いだから少し息が上がった。
獣道を殆ど登りきって、開けた頂上が見えた。そこに、大きな岩と青蘭の姿。
青蘭が、立ち上がって足元を見つめて、なんだか真剣な気を放っている。

(……あれ?)

私は違和感を覚えた。
青蘭の神気以外に、私のよく知る気配を感じた。
それは彼の足もと。
彼が見つめる地面から立ち上っていた。

(この神気は……)

私がこの気を間違えるはずがない。
私の大切な人の気配。……大鵬の神気だった。

私は自分の気配を消して、そっと青蘭に近づくことにした。
青がいつになく真剣な様子で、足元の神気に向かって口を動かすのが見えたから。
いったい何の話をしてるのか。
少し好奇心がうずいたりもしていた。



*
「……じか?」

「はい。俺たちは大丈夫です。Aも怪我ひとつしていません。今は美濃の山にいます」

岩場に近づくと、青蘭と大鵬が会話しているのが聞こえた。
青の足もとにはいつの間にか小さな水たまり。
そこから大鵬の気配がする。

(あぁ、そういうこと)

私は岩の陰に隠れて、青の様子を見た。
その手に青いひょうたんが握られている。
あそこには、きっと、館の周り……大鵬の神気を帯びた水が入っていたのだろうと想像がついた。
だから水を通じて大鵬と会話ができる。
青も人が悪い。……大鵬と話すなら、私も一緒の時に話してくれればいいのに。

(……私は大鵬の花嫁なのに)

ちょっと、嫉妬してしまった。

少し文句を言おうと岩陰から出ようとした。
そこで、私の足は止まってしまった。

「我の方は今、朱(あけ)が打って出ている」

――朱が打って出ている。

(……どういうこと?)

一瞬頭が働かなかった。

「お前たちのもとには、誰一人と近づけぬ! と張り切っておった……」

さらに大鵬に言葉は続く。

「朱……あの、ババァ……」

青の声は苦虫を噛み潰したように辛そう。
絞り出すような声。

▼→←一七章『終わりの刻(とき)は、突然に』



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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時

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