転章―14歳の夏― ページ1
さわさわと、音がする。
涼やかな風が頬をなでると、頭上の笹はかすかに揺れた。夏の残り香を感じさせる金の日差しが、キラキラと水気を含んだ濃茶の地面に降り注ぐ。
ここは天狗のいる鞍馬の山。この辺りでは比較的、大きな霊場とされている。
妖怪も生まれやすい場所。
その山奥を、てくてくと歩く。
手には、朱ノ姫に教わって編んだ、竹の籠を持っていた。
その中には、楕円の形をした、灰黄緑の実が数個。
「うーん。風の神が言っていたほど、竹の実なかったね」
私は隣を歩く、狐色の髪を藍色に染めた麻紐で縛った少年に声をかけた。
今は、私も彼も歩き易い、麻でできた象牙色の貫頭衣姿。
「まぁ、100年に一度の実りだからな。あっただけいいだろ」
つっけんどんな返事。
並んで歩いているのに、こちらを見ようともしない。
「あはは。そうだね」
思わず苦笑いしてしまう。
生まれた集落から、異国より渡来したという神様の花嫁として送り出されたのが7年前。
私は数えで14歳になっていた。
あのころより、ずっと身長が伸びた。……隣を歩く少年と同じくらいには。
私は7年で変わった。最近は女性らしい体系に変化してきたと、朱ノ姫にも言われていた。
だけど。
横を歩く少年の姿かたちは、7年前のまま。
人である私と、神様……妖である彼とでは生きる時間が違うのだ。
それは、私が嫁いだ神様……大鵬にも言えること。
彼の屋敷に住まう、他の神様もそう。
一人は、今隣を歩いている青蘭(せいらん)。……彼は私が大鵬に嫁いだその日に、私のことを守る役目を大鵬から与えられていた。
人嫌いの青蘭は初め、いくら私から話しかけても、「話すことはない」と必要最低限しか話さなかった。
それが、7年を共に過ごすうちに少しずつ変化してきた。
最初は「大鵬様が仰るから一緒にいる」そう話していた彼だけど。
今はそういうことはなくなった。
そういう変化はあっても、見た目の変化はない。
ついでにいうなら、つっけんどんな言葉遣いや振る舞いも相変わらずだけど。
たぶん、青蘭は元からそういう性格なんだと、最近では理解するようになっていた。
他の神様もみんなそう。
外見も性格も変わらない。
火気から生まれた妖の朱の姫(あけのひめ)。
大鵬とともに、大陸から来たらしい、老師父(ろうしふ)。
彼らは、最初から優しくて。……色々なことを教えてくれた。
7年間かけて、私にこの世界の理や、神気の使い方。それに彼ら自身のことも。
53人がお気に入り
「オリジナル」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時