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集落には森があって、さらにその奥に山がある。
木のほかに、岩場も多い山らしい。
そこに大鵬様が住まわれている、そう聞いたことがあった。


*

どの位の時が立ったのだろうか。
いつのまにか、御簾越しに、明るい日差しが見えはじめた。
外気が一気に熱を持つのが分かった。
そこで、篭が地面におろされる小さな衝撃を正座していた、膝の裏に感じた。

「花嫁様」

「はい」

外の男たちの呼びかけに答えた。

「我々がお供できるのはここまでです」

「……。お勤めご苦労様でした」

篭から出ずに労いの言葉を伝えた。
神様はとても焼きもち焼きなのだそうだ。
大鵬様への輿入れの際は、なるべく人目についてはならない、と翁に教わっていた。

「ここでお待ちください。いずれ、大鵬様から迎えが来るはずです」

「わかりました。気をつけてお帰りを」

「……どうか、我々に雨をお恵みください」

悲痛な声がした。

「もちろんです。私が花嫁となった暁には、雨神様を呼んで頂けるよう、最初にお願い申し上げます」

私のその言葉に安堵したのか、ここまで私を運んで来た男たちが離れていく気配がした。
しばらくして。
――誰の気配も感じなくなった。

それを見計らったかのようにして。

「主が新たな花嫁か?」

いつの間にそこにいたのだろう。
凛とした、鈴を転がすような声が辺りに響いた。

「……」

私は答えを躊躇った。
大鵬様は男神と聞いていた。
外から聞こえたのは明らかに女性の声だったから。
黙っていると。

「ふむ。わらわの声に警戒するのは、良い心がけじゃな」

そう聞こえた瞬間。

ボウッ!!

空気が爆ぜる音がした。
御簾の端に火がついた。

「!!?」

急な出来事でどう対処するべきか迷った。
外に出るべきか。
それとも、やり過ごすべきか。

「ふむ……。此度の花嫁はなかなか、肝の据わった女子(おなご)のようじゃのぅ?」

気に入ったぞ! そういって、篭周りの御簾が一気に燃やされた。
不思議と煙は出なくて咳き込むことはなかった。
開けた視界。
そこで、私は不思議な光景を見た。
御簾を燃やしたであろう炎。それがまるで大蛇のようにとぐろを巻いて、声の主に向かって行った。
そこにいたのは、やはり女性であった。
齢30ほどに見える。
藍色の装束を赤い帯で結んだ女性。
真っ白なおしろいを顔にはたき、口元に真っ赤な紅を引いていた。
黒曜石のように艶めく黒髪は、足元すれすれまでの長さ。

▼→←一章『名無しの花嫁』



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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます!  誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時

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