人喰い神の最後の花嫁―前編―【名前変換オリジナル】

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「Aの、『気』を感じる力は、かなりのものであるな！」

「え……？」

「それは、この岩山自体の気だ」

「山……自体？」

「そうだ」

雲に座った私の頭をなでながら、ゆっくり頷く大鵬。

「ここは火山だからな」

「火……山？ 翁から、聞いたことある。すごい、火を噴く山があるって」

(ここが……？)

確かに。
意識してあたりを見回せば、足の裏に感じる熱い気が辺り一帯に満ちている気もする。
その「熱い気」は、「火気」に性質は似てる気がする。
でも。

「さっき、足の裏から感じたのは、篝火の炎より、ずっと濃くて、強い気がした……。それは山の気も交じってるから？」

火の気ならば、朱ノ姫にも感じていた。
でも。
この山は、朱ノ姫より強い気。
そして。
朱ノ姫様よりもおどろおどろしい。

あの優しい火の神様は、とても穏やかで、春の陽気のような温かな気だった。
だけど。
この山の気は、どろどろした、誰かへの恨みとか、妬みとか。悲しい気持ちが混ざってる。
……まるで。

「この山、怒ってるみたい」

「はっはっは！！」

何が面白いのか、「やはり、Aの『気』を感じる力は、なかなかのものであるな！」そう大声で笑われた。

「この山は、昔から色々な気の中継地点になっているのだ」

今度は真面目なお顔。……なのに、秘密をこっそり教えようとする、悪戯っ子のような口元だ。
そっと耳打ちされる。

「妖が倭国を行き来するときは、この山のあたりを通る。それが先だったのか、それとも我らが通るせいか……、この山には都の陰気も集まりやすい」

「……陰気？」

「人の抱く負の感情だ。今は、都が平城から、長岡に移されて三年……か。人の世の権力闘争は我のあずかり知らぬところだが、それによって犠牲となった者や、その者を悼む者……がいるな。それ故に、陰気が溜まり、民の暮らしにも影が出る。すると、さらに陰気が溜まる」

「……溜まってばっかりだね。陰気が強くなれば、それがさらに強くなって……どんどん、人の暮らしが悪くなるみたい」

「悪いことばかりではないぞ。我ら妖も、基本的には陰気に属するからな」

「あ……」

苦笑いした大鵬がそこにいた。
――陰気を否定することは、神様方をも否定してしまうのだと思った。

「ごめんなさい」

私は急いで謝った。
だけど。
大鵬は、にっこり微笑んで、私の頭をなでただけ。
怒ったりしないで、優しい口調で教えてくれた。

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