十章『「知らない」を「知る」努力』 ページ40
わたしは、大鵬の広い肩をぎゅっと握りながら。
大鵬が約束を果たすために、出かけてくれることに感謝した。
「ありがとう」
「礼にはおよばぬ!」
そういって、部屋の外に出た。
いつの間にか、そこは渡り廊下になっていて。
目の前には私に用意された部屋からも見えた池。
「雲進(うんしん)!」
大鵬が叫ぶと、小さな雲の塊が、ふわふわと。……空から渡り廊下の手すりまで、降りてきた。
「ではA、行くぞ!」
そういって、大鵬は傍に寄って来た雲に飛び乗る。
私も、大鵬の肩に乗った状態で雲に乗ることになった。
雲は一気に浮上して。
晴天の空を進んでいった。
その速さは……今まで感じたことのないものだった。
肌が風を切る感覚。朱ノ姫がまとめてくれた後ろ髪が、水平に浮んで、生きものみたいにうねっていた。
――でも。
不思議と、怖いとは思わなかった。
それは、きっと。
大鵬がしっかりと右肩に乗った私の体を、両腕で捕まえてくれていたから。
*
そして。
雲は西に向かって進む。
いくつもの、薄い雲の塊とすれ違った。
眼下に広がるのは、どこまでも続く群青の広い絨毯。
太陽の光を受けて、ところどころ、金色や銀色に輝いて。
それから、うねったりもしている。
「……あれ、は?」
真下の不思議な光景に、思わず呟いた。
「うん? あぁ、そうか……あの地域は山ばかりだしの。Aは『海』知らぬか?」
大鵬が肩の上の私の顔を見上げた。
「うーん……。翁の話の中だけでなら。でも、実際に見たことはないよ」
大鵬の目を見る。
「そうか! では、あれが海だ!!」
遥か下の景気を指差した、大鵬が笑う。
「あれ、全部が、塩辛いっていわれる水なの?」
首をかしげると、
「はっはっは! そうであるぞ! しかし、翁も面白い教え方をしたものだな!!」
破顔された。
それから。……どこまでも、優しい目が私を見つめる。
吸いこまれそうな、茜色の瞳。
近くで見ると、少し金色がかってもいて。
とても不思議な色。
「うん? どうした?」
「あ、いえ……大鵬の目が綺麗だなぁ、って」
「そうか?」
「うん」
「そうか!」
白い歯を見せて笑うその人は、とても愉快そう。
嬉しくて。私もクスクス笑う。
「だが、我はAの漆黒の瞳が好きだぞ!」
「え……」
急に「好き」と言われて呆けてしまったけど。
大鵬は構わずに、続けた。
「まるで檜扇(ひおうぎ)に実る、射干玉(ぬばたま)のごとく、艶めいて美しい!」
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます! 誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時