七章『約束』 ページ28
*
「――さて」
一通り落ち込み終わったのか、大鵬が気を取り直して抱き上げた私を見返した。
「我はAに『真名』を与えた。今、Aは正式な我の花嫁だ」
「うん」
「それ故、花嫁たるAの願いを叶える義務がある」
ニヤリと力強い笑み。
「――！ じゃあ！！」
私の頬が自然に緩む。
私は、大鵬の花嫁として差し出された供物。……どうやら、その役割を果たせるようだ。
洞窟の中で過ごした七年間。……私は、ほぼ翁だけを相手にして育った。
反対に言えば、翁は七年もの間、毎日足繁く洞窟に通ってくれていた。
洞窟の奥には、どこかの川から流れ込んできたらしい水で作られた、小さな池もあったから。……行水にも困らなかった。
だから。
本当に一歩も私は外に出られなかった。
そんな私の代わりに、食事の用意も、着替えも……、何もかもを用意してくれた。
寒い冬は、火鉢を運び入れ。夜には多めに篝火の薪を用意してくれた。
私が寒くないように。飢えないように。
あとは。
神様の花嫁とは何たるかを、延々と聞かされたりもした。
――でも。
時々は、退屈であろうといって、小さな毬や、駒も持ってきてくれた。
私は、翁に感謝している。
あの人は私を、大鵬様の花嫁として、いつかは神様に差し出すつもりであったとしても。……それでも、ずっと面倒を見てくれたから。
雨の日も。
風の日も。
例え外が、台風であろうと、吹雪であろうと、だ。
……何もない洞窟で、私が七年も無事に育つことができたのは。
大鵬に捧げられることを、当然のように受け入れてきたのは。
すべて、翁の献身的な世話があったからこそだ。
だから。
翁との約束は果たしたい。
――翁は私に、大鵬への雨乞いを願った。
それが叶えられるのは。……恩人への恩返しができるのは、とても嬉しいことだった。
それは。
洞窟の中しか知らずにいた私にも、ちゃんと生まれてきた意味があった、ということでもあるのだから。
私は改めて、大鵬に雨を願おうと思った。
そうしたら。
「Aの願いは、集落への雨であったな」
先に願いを言われてしまった。
「う、うん……でも、どうして？」
どうしてわかったんだろう。
私は、今の今まで一度だって、ちゃんと『雨乞い』はしていない。
不思議に思っていると。
「お前に『真名』を授けたとき、叫ばれたからな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 52人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
一花(プロフ) - Nonさん» （続）しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした（汗） 夢想力は多少あるかもしれません（笑） Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます！ (2014年8月30日 23時) (
レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます！ それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません（続く） (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます！ ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます！ レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます！ (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます！一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか？凄く物語にのめり込めるので大好きです！あと、誉めるのもとても上手いですよね！ (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます！ 誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一花 | 作成日時：2014年7月22日 22時
