▼ ページ12
*
「よい。かしこまるばかりでは、肩がこるであろう。そなたは我の「花嫁」、我は夫。……ならば、「大鵬」と名前で呼ぶがいい」
「いえ、しかし……」
神様を呼び捨てにするだなんて非礼を、私は教わってこなかった。
畳の敷かれた床を見つめて狼狽した私に苦笑する溜息が聞こえた。
それから。
「……っえ!?」
私の体が宙に浮いた。
床に添えていた両腕の間に、大鵬様の腕が滑り込んで。
私の腰のあたりに両手を添えて。
そのまま大鵬様に、たかいたかいをされる形になった。
「あ、あの降ろしてくださいませ!!」
「いや、降ろさぬ」
「っは!?」
「降ろしては、また顔をうつむけるのであろう?」
「……」
「我は、花嫁殿とは常に対等な関係を築くことを望んでおるからの。我の顔を見て話せ。そして、大鵬と呼べ!」
「……いえ、しかし……」
未だ困惑していた私の眼の端に、朱姫様がやれやれと首を振るう姿が見えた。
そして。
「大鵬殿はこういうお方だ。……娘、諦めるのが賢明であるぞ」
諭されてしまった。
「は、はい。分かりました……。えっと、では、っ……大鵬……お、降ろしてください」
私はおずおずと告げてみたのだが。
体を少し低い位置にされ、大鵬の顔を真っ直ぐ見る形にされただけであった。
まだ、足は床から遠い。
「敬語も辞めろ」
「え! ですが……」
「辞めろと言っている」
「……はい」
大鵬はずるい神様だと思った。
私が「はい」というまで降ろさないつもりだ。
仕方なく同意をしたのだが。
「『はい』……か?」
(そ、そこまで突っ込むのですか!?)
大鵬様は人喰いの神様。
そして、時に日照りを起こすが、雨も呼び込んでくださる。……気まぐれの神様。
けれども。
実際に出会ったその人は、非常に気さくな神様であった。
*
「……う、うん。わかりまし……いえ、わかった」
私は神様と対等な言葉を交わすことに、心の中で葛藤しつつ、夫である大鵬の機嫌を損ねないためにも、望まれた返事をする。
「素直であるな!」
気に入った! と、体を再び持ち上げられ、まわされた。
「う、わぁ! ちょ、本当に降ろしてくださいっ!!」
「降ろしてください、ではないであろう?」
「う、意地悪しないで降ろして……!!」
「うむ。よかろう!」
そういって、やっと私は床に足をつけることが叶った。
大鵬は気さくなだけでなく、意地の悪い神様であることも学んだ。
52人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
貴方は、「ストーリー本編に作者の雑談がある/多い作品」をどう思いますか?【ア...
【募集企画】キャラクターシート【ワナビー・ヒーローズ】 【雪曇 ユキ】
月に混ずる光射し。【選考型募集企画】
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます! 誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時