理想のままで【HQ】

外 ページ9

「そういえば研磨どこ？」

「ここ。」


と、ヨロヨロとこちらに研磨が歩いてきた。
私は研磨の忘れ物を


「これ忘れ物。」


と言って、それらを渡した。
じぃっとシューズを研磨は見つめる。


「…シューズだけ持ち帰って。」

「わかった。じゃ。」


と、帰ろうとするとクロが「ちょっと待て！！」とツッコんできた。
珍しいこともあるもんだ。クロがツッコミなんて。


「あ…A、ちょっとだけ見ていきなよ。」


研磨が私を止めた。
珍しいこともあるもんだ。研磨が引き篭りを止めるなんて。


「…ちょっとだけね。」


そう言って体育館に入る。


「おっ、引篭ちゃんなのに珍しいねぇ。」

「ふざけてんの？」


私はクロを睨んだ。
クロからしたら、これが普通の私だ。
昨日の死にかけのような暗さは初めてだろう。


「女子マネ希望かな。」


そう、他の部員が言ったのが聞こえた。
そんなわけないでしょ、と思いつつ体育館の端っこに座った。


「にしても…誰かに似てるような…似てないような…。」

「…はじめまして感がないよな。」

「…ない。」


と、籠にボールを入れながら話している人がいた。
1年生だろうか、春だからまだ十分に打たせてもらってないようだった。

まあ、春は忙しいし仕方ないか。


「そ、そこの可愛子ちゃん。」


ボーッと見ているとモヒカンの人に話しかけられた。
話しかけられても困ります。とか思ったが無視するのは申し訳ない。


「なんですか？」


私はそう笑う。
なぜか、自然と笑顔になってしまう。
本当は無表情で楽に過ごしたいのに。


「マネージャーはやらないですよ。」


と、ニコニコと返す。
そうするとその人は明らかに落ち込んでいた。
秘儀、ニコニコと酷いことを言う。


「A、無理して笑わなくていいのに。」


ずずずーっと壁に寄りかかりながら研磨が隣に座った。


「…笑っちゃうんだよ…。」

「…変なの。」


と、気楽に会話をしていると突然、またざわめきが起こった。


「に、似てる！？」

「そんなわ…似てる！？」


さっきの、一年生っぽい人たちがザワザワとしていた。
その中の1人がクロに話しかけに行った。
ただ、そんなことは別に気にせず私は研磨と話す。


「セッターなんだから戻りなよ。」

「今、休憩。」

「そうなんだ。」

「…明日、来る？学校。」


と、俯いたまま研磨は私に聞いた。
私はうーんって唸る。


「…行こうかな。」


そう、答えた。

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