夏が死んだその日【文スト】【東京喰種】

ライオンの様に　少年の様に ページ20

私は拷問さんが来るのを静かに、静かに狙う。
獲物を狙うライオンの様に鋭く、
捕まえたい虫を捕まえる少年の様に興奮しながら。

太々しい拷問さんが、ノソノコと入ってくる。
わざと、全身の力を抜く。
彼にはおもしろく見える姿だ。
そして、私の考えを見抜かせない姿でもある。


「さて！始まるよ〜！」


と、ルンルンに取ってきた何かを振り上げる。
私に取ってそれが何かはどうでもよかった。
しかし、その人が振り上げながら云った言葉はどうでも良くなかった。


「そういえばあ〜探偵社に嘘がバレちゃったんだよね！
君に関する、ウ・ソ！」


それは私の興味をそそった。
私は彼の言葉に集中した。
しかし、その集中は無駄だった。
彼は食べられるかもしれないというのにわざわざ耳元に来て、低い声で


「アンタが、探偵社を壊滅させるために送ったスパイだっていう嘘。
今から探偵社を襲撃するから、自分がいなくなったせいで守りきれなくなった仲間の死を見届けてね。」


と云ったのだ。
私はまた、自分に絶望した。
私が関わることは何もかもが遅い。
失望もした。
また、私のせいで傷つけた。


『アンタのせいだ』


その声が、頭に響く。
母親だけでなく、この世界で関わった全員の声で。
私の頭の中は散らかした机の様に、図書館の本棚の本をひっくり返した様にぐちゃぐちゃになった。
唯一の対策であった、考えることすらまともにうまくできなくなった。

私の中で私をつなぎ止めていた物がなくなった瞬間だった。


全部、元どおりに、全員救わないと。



私は鎖を引きちぎり、振り上げた腕の下、彼の脇の下に潜り込む。


「え！？」

「喰種の飢えは怖いんだよ」


少年の様にニコッと笑い、ライオンの様に切れ味の良い歯を見せる。
そして脇の下からガブリと服ごと嚙り切る。
彼はきっと今までにないほどの痛みを味わったのだろう。失神していた。美味しくはないが、まあまあいい甘味だ。


「私を気絶させるくらい痛めておいてそれなの？」


と、反応がない彼に話しかける。
やっぱり人は酷い。自分のことは棚に上がるし、主張も安定しない。すぐ意思を変える。
やったらやりっぱなし。
おかしいのはヒトだ。
この世界に来てわかった。
豊かにするのも、歪めるのも喰種じゃない。
人間だ。

私は荷物を取る。
自分の荷物はこの地下に置きっぱなしだった。
リュックを背負い、マスクをつける。
私はまた自分に対しても、ヒトに対しても失望して地下を出た。

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