3163.【4】 ページ13
［先輩side］
日中、常に智くんと
翔くんが付き添っていられるワケではないから…
コンコンコン…
翔「…はい」
「今日は翔くん一人か…休憩はとった？」
翔「…まだ、です…」
昼前に病室を覗いたら翔くん一人。
智くんは仕事と家のことだろう。
前向きに頑張ろうとしている翔くんだけど、こうして
一人になると、思い詰めたような表情をしている
ことがある。
今も、雅紀くんの手を握りながら「掛けてやる言葉が
見つからなくて…」って俯いた。
ベッドで寝息を立てている雅紀くんの頬は濡れていて
泣いたのが分かる。
言葉を発せないけれど、静かに涙を零すことが
あるから、見ている方としては辛いんだろうな…と。
「午後、天気良くなるみたいだから屋上連れてって
やったらどう？」
翔「…」
「気分転換。…な？」
翔「…はい」
お互いに気分転換になると思う。
午後になって車椅子を借りて、再び病室へ。
翔「ありがとうございます」
「ん、準備もできてるな」
翔「はい、バッチリです」
点滴やら、色んな器械に繋がれているから、散歩に
いくだけでも大変だけど、翔くんが手際よく準備を
進めていてくれた。
午前中の不安そうな表情はなくなって、雅紀くんに
「いこうか！」って優しく笑い掛けるお兄ちゃんに
なってる。
［翔にぃside］
先輩が心配して気に掛けてくれているのは
分かっているから。
少しでも前向きにならなきゃと思って。
「首、辛くない？」
雅「…」
「大丈夫そうだな」
今の雅紀は普通の車椅子には座れないから、腰も
首も支えてくれるような、特殊な車椅子を使う。
「辛いところない？」
雅「…」
「そっか、じゃあ行こうか」
この数日間で、雅紀の目の動きだけでYESかNOかを
判断できるようになった。
俺だけじゃない、他の3人も。
先「風、気持ちいいね〜」
「ほんとですね。来てよかった…」
屋上は雲の合間から日が差して、風が吹いていて
気持ちがいい。
梅雨の晴れ間だから、もっとムシムシしているかと
覚悟していたけど、爽やか。
雅紀も、風を感じで気持ち良さそうな表情をしてる。
もうほとんど、自分の意思で体を動かすことが
出来なくなってしまった雅紀。
本人も俺らも覚悟はしていたけど、実際のことと
なると、やっぱり気持ちがついてこない。
特に雅紀自身が感じている不安は相当なものだと
思うんだ。
先輩に「雅紀くんには、とにかく前向きになる言葉を
掛けてやれ」って言われた。
俺に、できるかな…
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作者名：空
| 作成日時：2019年6月7日 19時
