短編小説 /貴方は私の欲望の儘に/ ページ23
――――『手首にキス』
ビリッ、と、右手首に痛みを感じた。
それは、キスと言うには余りにも激しすぎたのかもしれない。
キスマーク、否、歯形とも呼べるその赤くなった場所からは、つうっ、と一筋生暖かい液体が流れ落ちた。
「お、おい、何を、」
彼の言葉に彼女は答えず、傷ついた皮膚を舐め、溢れ出る血液を飲み、そしてまた手首を噛む。
それはもう、自分の欲望のままに。餌を貪る獣の様に。
「止めろ、痛い――――」
彼の声は彼女に届いてはいないのか。それとも、ただ聞こえないふりをしているだけなのか。
「貴方の所為よ」
「私を嫌いになった?」
「もう、要らない?」
「もう、好きじゃない?」
譫言の様にそう呟きながら、もう既に真っ赤に腫れあがったその手首を執拗に噛みつける。
それはもしかすると、彼女の中では一種の愛情表現、キスの心算だったのかもしれない。
「そんなことない、大好きだ、だから、だから止めてくれッ」
こんなに細い彼女の腕は、振り払おうと思えば幾らでもそう出来ただろう。彼女を突き飛ばし、逃げることだって出来ただろう。
でもそうしなかった、出来なかったのは、虚ろな瞳をして彼の手首を貪る彼女が、何故かとても哀しそうに見えた所為なのかもしれない。
彼女はもう一度滴り落ちる血液を舐めとると、今度は愛おしそうに、さっきまで噛みついていたところへ優しくキスをする。
何度も何度も、小鳥の様に、狂おし気に口付ける。
「……離せ」
「もう、何処にも行かないでね?」
噛み合わない会話、もう慣れたといえば変な話だが、結局はそうなるのだろう。
包帯の残りはあったかな、明日は腕が見えないように長袖で出かけなきゃな、なんてことを考えられるくらいの余裕は出来た。
「貴方は、私のモノ」
「そうだ、俺は、お前のもの」
「もう、何処にも行かないでね?」
「ああ、行かないよ」
「貴方は私の思うが儘に、」
「ああ、俺はお前の欲望の儘に、」
こんなに狂った彼女を、まだ愛しいと思ってしまうのは――――
溢れ出る狂気の中、暗闇に咲く真紅の薔薇の様な恐怖ともいえる美しさ。
彼女のそれに、魅了されてしまったからなのかもしれない。
――――『欲望』
短編小説 /賞賛の言葉なんて、何一つかけてくれなかった癖に/→←短編小説 /貴方が私を見ていなくとも/
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容姿端麗に生まれ変わり隊(プロフ) - 『頬』と『額』は親しみ感が溢れてていいと思いました(o^−^o) (2019年4月29日 13時) (レス) id: 26de7c6d79 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - ちなみに頬へのキスは海外だと挨拶に近いですね。私も海外に住んでいるので親しい人とは頬にキスします。 (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - 月が綺麗ですねから来ました!!鼻梁は鼻筋の事ですよ。面白かったです!こんなことをしてくれる彼氏が欲しいです。続編も楽しみにしています!頑張ってくださいね!! (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - とりあえず完結しました〜!皆さま本当にお付き合いありがとうございました<(_ _)>近々続編を作るつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします! (2017年2月11日 23時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - のわあああ、意味が意味なのでヤンデレ続きになって申し訳ないです……全然純愛じゃない…キスの格言に相応しくない…… (2017年1月31日 20時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年8月31日 18時