2曲目 ページ2
｢Trick or Treat｣
『ひ......!!』
後ろから突然聞こえてきた愉快そうな声に口から高い声が漏れる
小刻みに体が震えて、振り返ってはいけないと本能が言っていた
なのに、体は、声の方向へ振り返る
｢お菓子をくれなきゃイタズラするぞ｣
細身で、私より身長は高い
魔女のような帽子に黒くて長いマント
にいっと笑った青の髪の男はわざとらしくがおーと片手を付ける
可愛らしいものじゃない
逃げなきゃ
人は緊急事態になったら2種類の選択があるらしい
必死に逃げることが出来る選択
恐ろしくて、体が硬直してしまう選択
私は前者だった
くるりと男に背を向けて駆け出す
湿度を含んだ地面はヒールにまとわりつく
堅苦しいスーツはただでさえ運動の苦手な私の邪魔にしかならなかった
後ろで男がなにか呟いた気もするが気にせず走る
怖い、怖い
帰りたい。
でも、その願いは直ぐに打ち砕かれた
｢捕まえた｣
掴まれる両肩
耳元で呟かれる吐息混じりの声
随分と走った気がするのに相手は息も切れてない
今度は、後者の選択のようで体が固まって動かない
なんで、今すぐにでも振り払って逃げたいのに
｢逃げたらアカンやんか｣
西の方の言葉を使ったそれは私の肩から手をどけて前方に回り込む
『...さっきと、違う...』
｢そらそうやろ。あいつはろくな運動出来んし｣
心底楽しそうに笑った男はさっきの男と違う
茶色い髪に整った顔立ち
普通であれば大分モテるだろうなというスタイルの良さ
緑のパーカーを来ているそいつは、普通ではなかった
灰色の大きな耳に、背中側に見えるのは多分尻尾
口からは鋭い八重歯が覗いていて指先には尖った爪がついている
｢びびっとる？｣
『夢...？』
｢残念現実｣
警戒心しかない私に笑いかける顔は少し幼く見えなくもない
楽しそうに笑った顔は人懐っこくて人間でない点を除けば仲良くしたい
｢ではでは...
＿＿＿可愛い可愛いお客様。我々の世界へようこそ
＿＿＿1名様いらっしゃい｣
声と同時に視界が闇に包まれた
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