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scene286 ページ36

信じられないというように何度も瞬きを繰り返す。


ここに来る前に家に寄って来たのは、そのためだ。


「で……でも」


そのとき、Aのスマホが鳴る。


「ま、マネージャーさんが……今から迎えに……ツアーのリハーサルをするって……」


画面を見つめて、Aは目を白黒させる。


「ほ……本当にヒロトが……?」


目をそらしてうなずくと、Aの表情が複雑に変化する。泣き出しそうな、笑い出しそうな。


「どうして……」

「お前はここでやめるべきじゃないと思ったんだよ」


Aの唇が、なにか言いたげに動く。でも、なにも言わずに口をつぐんでしまう。


「今……こんな風にやめたら、たぶん後悔する」


困ったように視線を泳がせるAの傍らに歩み寄り、そっと手をとる。


「迷ったままでいい。今すぐどうするかなんて決めなくていいから」


Aの手は冷たかった。視線が合って、おれは不器用な笑顔を見せる。


「ほら、行くぞ」


戸惑った顔のままのAの手を引いて歩く。


「で、でも私……っ、自分勝手なことして、たくさん迷惑かけて……」


涙声のAに、心臓がぎゅっとなる。


「そうだな。でも、それだけじゃねえだろ」


自分勝手なんて嘘だ。お前はなによりも、守るべきものを優先していた。最後のときまで、ずっと。


これからは一人じゃない。エゴでも不純でも、必ずだれかの力になっているんだ。


もう逃げるな、おれも逃げないから。





「へえ、そういうことだったんだ。無茶するね」


薄暗いステージ袖で、野坂は腕組みをしながら言った。


「でも、よく承諾してもらえたね。土下座でもしたの?」

「してねえよ。別に、ツアーを成功させれば不利益にもならねえだろ」


大勢のスタッフが忙しく動き回っている中、おれと野坂だけのんびりしているのが、なんだか申し訳なかった。


「絶対上手くいくって、信じてたんだね」

「絶対なんてねえけどな。あいつなら上手くやるだろ」


野坂は少し意外そうな顔をする。


「成長したね、ヒロトくんも」

「お前はおれの師匠かよ」

「親友でしょ?」


反応に困ることを言わないで欲しい。


「でも、ずるいな二人だけ。ぼくもこれ、使ってみようかな」


野坂は紫色の石を手の中で転がす。

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ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…! (2021年7月5日 16時) (レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます!丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました!個人的には甘くない終わりにくそぅ!と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください!応援しております! (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました!大好きな作品です!完結おめでとうございました! (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした!!!!大好きです!ヾ(@⌒ー⌒@)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)

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作成日時:2019年8月22日 20時

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