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顔を上げると、大学生くらいの男と視線が合う。
そいつは顔をしかめると、おれの横を通り過ぎていった。
耳の奥にある心臓が、突然、脈動を早くする。
立ち上がり、吐き出される前の紫のかたまりをかき分ける。人のいない交差点を駆け抜けると、車のクラクションがわき腹をかすめる。
『なにしてるの、ヒロトくん……っ』
おれはそのまま、人の洪水の中に飛び込む。
「なんかすっげえ体が軽いんだよ」
いつの間にか、吐き気も頭痛も消え失せている。
自分では制御しきれないくらいの力が、体の奥底からみなぎってくる。
世界が止まって見える。人も、車も。みんな、おれの動きに付いて来られないんだ。
「たぶん、お前も追いつけねえよ、野坂」
『なに言って……』
「力って、こういうことなんだな」
こんなに全力で走り続けても、全然息が上がらない。
「なんだよ、すげえじゃん、エイリア石って」
『だめだよ、ヒロトくん。そっちに行っちゃいけない……!』
「お前も使ってみればわかるよ、野坂」
この力があれば、おれは誰にも負けない。
こんな力が手に入るなら、吐き気も頭痛も大したことじゃない。
そんな代償、安いもんだ。なんで今まで、こんな力を独り占めしていたんだよ。
『お願いだから正気に戻って。Aちゃんのことを思い出すんだ』
「A……?」
不意に、頭蓋骨の中で花火が爆発したみたいに、目の奥に火花が散った。
「……なんだこれ……」
『どうしたの、ヒロトくん。なにが起こったの』
光が弾ける。一瞬、金色に包まれた世界は、次の瞬間、真っ暗になった。
「あ……れ……」
目を凝らすと、暗闇の中に、幼いころの自分がいた。
そいつは膝を抱えて、なにもない空間に独りぼっちだった。
「そうか……やっぱり……」
『なに、なにが起きてるの?』
痛みも苦しさもない。そこにはなにもない。ただ、虚無だけがあった。
『ヒロトくん、君がやるべきことはひとつだ。わかるよね』
やるべきことってなんだ。そんなもの、ここにはない。
黒いどろどろとしたものが、背中を這い上がってまとわりついてくる。
『聞こえてる? ヒロトくん』
おれは抗おうとしなかった。このままでいい。
自分が目を開けているのか、閉じているのかわからなかった。
もう、全部どうでもいい。このまま、終わりにしよう。
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ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…! (2021年7月5日 16時) (レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます!丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました!個人的には甘くない終わりにくそぅ!と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください!応援しております! (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました!大好きな作品です!完結おめでとうございました! (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした!!!!大好きです!ヾ(@⌒ー⌒@)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2019年8月22日 20時