scene72 ページ22
おれはなんと答えたらいいのかわからなかった。仕事でなにか嫌なことでもあったのだろうか。「なにかあったのか」って、訊いた方がいいのか、訊いてもいいのか、わからなかった。
「私ね、本当にサッカー大好きなの、だからイナズマジャパンのマネージャーやれて、本当に嬉しいんだ」
なんだろう、息が苦しくなってきた。
「約束したんだけどね、FFIが終わるまでは、それまではって思ってたんだけどね。でも――」
Aはそこで言葉を切って、そのままじっと星を見つめていた。
約束? さっきからなんの話をしてるんだ。
口を開きかけたとき、後ろで扉が開く音がした。
「なんだ、ここにいたのか」
その声に、Aは振り返り、「円堂さん」とようやく笑顔を見せた。でもその顔は針金をむりやりねじまげたみたいなギザギザした笑顔だった。
「A、帰って来てたのか。明日から練習出られるんだろ?」
「はい、長い間休んでしまって、すみません」
「いいって、明日からまたよろしくな」
円堂さんはAの肩に手を置いて太陽みたいに暖かく笑う。
「円堂さん、それは?」
おれは円堂さんが持っているノートを指さした。
「ああ、これか、これはじいちゃんの特訓ノートだよ」
円堂さんはノートを開いて「すっげえんだぜ、じいちゃんのノート!」と言うけど、なにが書いてあるかまったく読めない。きったねえ字。
「もっともっと特訓して、絶対世界一になるぞ!」
「はい、イナズマジャパンは、絶対に世界一になれますよ」
Aは自信たっぷりに言った。
「簡単に言うなよ」
おれがぼそっと言ったのをAは聞き逃さなかった、「なれるよ、絶対」とおれの目を真っ直ぐに見つめた。
・
円堂さんが戻っていったあとも、おれとAはしばらく二人で話していた。
そのときのAはずっと楽しそうだった。
変な必殺技の話とか、くせの強い選手の話とか、そんなことを長い時間話していた。
Aは海外の選手にも詳しかった。どこからそんな情報を仕入れているんだろう。
気付くと夜の11時を過ぎていて、早く寝た方がいいよとAに言われ、しぶしぶ部屋へ戻ることにした。
「お前は戻らねえのか」
「うん、もう少し星を見ていたくて」
バルコニーの扉を閉める前に、Aは「おやすみ」と言って微笑んだ。切ないくらい透き通った笑顔だった。
・
それが今も頭にこびりついて剥がれない、おれが最後に見たAの姿だった。
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楓 - 福岡、京都、沖縄...陽花戸中、漫遊寺中、大海原中ですね。立向居や木暮、綱海がいるか確かめにでも行ったのでしょうか...。でも、夢主ちゃんの世界にヒロトは存在していない、と聞いたとき、ヒロト本人はどう思うのでしょうか...続きがすごく気になります! (2019年2月17日 17時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 無印時代からアレス時代に来るとき、雷門中から飛び降りたことで夢主ちゃんがこの時代に来れたとか...?色々想像できて楽しいです!頑張ってください! (2019年2月15日 13時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 初コメ失礼します!!もしかして夢主ちゃんは無印時代から来た子ですか!?アツヤ見て泣いたのも、ヒロトを見てビックリしたのもつじつまが合いますし...。(アツヤが生きてて嬉し涙、ヒロトがタツヤと全然似てなくて驚き)いつも応援しています!! (2019年2月12日 3時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - すごく場面場面が入ってきてとっても読みやすいです!続き楽しみにしています♪ (2019年2月11日 22時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
はずにゃん☆ - こんな感じの小説待ってましたー♪投稿頑張て下さい。 楽しみにしています! (2019年2月9日 14時) (レス) id: f86bddf786 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2019年2月8日 17時