逆転荘園 (ページ1)

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歓迎ページ1

サバイバーは逃げ、ハンターはそれを追う。故に逃げるサバイバーは弱者であり追うハンターは強者である。

　そのような事を誰が決めたのだろうか？このゲームに参加した老若男女あらゆる者共はみな等しく弱者であり、ロッキングチェアに腰掛け、楽しそうにゲームを眺める荘園の主唯一が強者ではないのだろうか。でなければサバイバーが刃物こそ持たないもののハンターを手に掛けるのに十分な要素を兼ね備えた者共がちらほら居る理由には決してならない。

　荘園の主はサバイバーが生活する館と、ハンターが生活する館へそれぞれ伝書鳩を放った。内容は至極簡単かつ短文。ただ、これよりサバイバーとハンターの立ち位置を逆転させるとだけ。

　狂気に塗れた名無しは嘆いた。己が衝動はハンターという立ち位置でなければ解消されず、逃げ惑う事に価値を見出せないと。欲に塗れた罪の介入者は小さく笑った。これならば自分にもある程度のチャンスが多く巡ってくるかもしれないと。それぞれがそれぞれの思いを抱き、逆転ゲームは始まってしまった。

「…と、言う所までが今の私たちの立ち位置です。何か質問は？」

　謝必安は態とらしく首を傾げる。視線の先には体を揺らしながら熱心に此方を見つめる異形の怪物が佇んでいる。確か、名前はルキノだったか。あやふやな情報は謝必安を多いに不安にさせた。故に、確かめるまでは怪物で統一しておく。

　怪物は何も言わない。ただ、質問は無い。故に部屋へ案内しろと命令をしているかのようである。謝必安は溜息を吐いて、此方へと怪物を案内することにした。

　薄暗い館である。そろそろ改修が必要なのではないかと意見が出始めそうなほどに、この館は薄暗い。夜になればランプや蝋燭でもなければまともに動けやしないに決まっている。尤も、人間なのかどうかも怪しいごく一部にとっては何ら問題のないことらしいのだが。

　謝必安がギシギシと廊下を踏み鳴らすと、背後の怪物は謝必安よりも慎重に一歩を踏み出す。きっと細身の謝必安ですら床が悲鳴を上げているのだから、自分などが無遠慮に踏めば抜けてしまうとでも思っているのに違いない。無口ではあるが、中々繊細な男のようで内心安堵する。謝必安は、野蛮な男がそこまで好きではない。

そんな二人の空気を打ち殺すかのようにジリリとベルが鳴った。

「どうやら始まるようです」

　記念すべき初ゲームの参加者は誰だったか。謝必安は覚えていない。