子供4 ページ4
「大丈夫か」
上から降ってきた優しい声に、頷く。
背後から忍び寄る形の無い恐怖に私が怯えないように
、何度も頭を撫でてくれる。
その時の私は、謝罪もお礼もすることが出来ず、ただ黙って体を委ねることしか出来なかったのだった。
それから、私たちは何度も戦をした。
人も集まり、軍勢の力は格段に上がった。
以前の戦力と比べれば桁違いだ。
けどそれは、小太郎兄さん晋助兄さん、そして銀ちゃんの力も大きいと思われる。
そんな飛び抜けた力を持つ三人には、どこから出てきたのな分からないが、異名がついた。
小太郎兄さんには、狂乱の貴公子。
鬼兵隊を率いる晋助兄さんには、鬼兵隊総督。
銀ちゃんは…白夜叉。
特別銀ちゃんは凄まじい力を持ち、ブレーキの効かない戦闘をする。
敵からも味方からも恐れられ、流れる噂は良いものではなかった。
銀色の髪が血を浴び戦地を駆ける姿は、まさに夜叉。
だから彼は、その異名をとても嫌っていたのだった。
そして、ついに私にも異名というものがつくことになる。
「冷酷な艶美…」
無慈悲な心を持ち、それでいて美しい。
…艶美なんて、私には勿体ない言葉だ。
けどきっと、その艶美というのも嫌味を込められたのではないかと私は思う。
例えそうじゃなかったとしても、私はそう受けとってしまう。
それほど私の精神は、人間のものとは離れたものになっていた。
それが分かったのは、勝利目前の戦の時だった。
気づいたら、周りは全て死体の山だった。
今までは胸に何かつっかえる物を抱え、戦いに臨んでいた。
斬っていく天人や人の顔は、忘れることが出来なかった。
なのに、だ。
いつからか、私の目にはその死体の山さえも映らなくなっていたのだ。
無残な死体を見ても、何も思わなくなったのだ。
…そりゃ冷酷と呼ばれるに決まっている。
「A、そいつ離してやれ。もう息してねぇぜ」
晋助兄さんの淡々とした声が届く。
私の右手の刀が天人の脇腹を貫通し、天人は私に寄りかかるようにして息を引き取っていた。
冷静にスっと刀を抜けば、天人はバタッと力なく倒れる。
もう一度周りを見渡せば、もうこの天人が最後だったようだ。
敵陣は既に引き上げていて。
きっと長い間、私はあの状態でただ突っ立っていたのだろう。
「戻るぞ、日が暮れちまう」
そんな私に、晋助兄さんは何も言わなかった。
ただ私の手を握り、自分が道標になるかのように歩いてくれるのだった。
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年11月8日 23時