あなたに贈る花束【坂田銀時】

花束２４ ページ24

３日後、仕事が終わったと同時に多田がそそくさと近寄ってきた。


「これ、よかったら使ってください」


「は？」


「この前のお礼です」


小奇麗にラッピングされた薄い物を渡され、それっぽい香りが鼻をかすめた。

目で開けていいか確認すると頷いてくれたので、遠慮なくその場で見てみる。

中には、深い紺色のハンカチが入っていた。

さんざん元カノにブランド物をプレゼントしてきた俺だ。

これが安い物じゃないことくらいわかる。

食事に誘うのではなく、プレゼントしてきたことに意外性を感じたが。


「ありがとうございます」


「はい」


積極的なアプローチは減り、大人しくなった多田。

素っ気なくあっさりしている俺を見て、現実が分かったのだろうか。

まぁ、男なんて妄想を簡単にぶっ壊すのが仕事だからな。


「あの時、坂田さんが言ってくださったので、課長の仕事押し付ける嫌がらせはなくなりました」


「そっすか…よかったっす」


「本当に、ありがとうございました」


今まで作っていると丸分かりだった笑顔も声も仕草も。

素になった様な気がした。


「その方が可愛いっすよ、多田さん」


「…え？」


「じゃ、お疲れっした」


何を言われたのか理解が出来ないままでいるのか、ただ呆然と立ち尽くす多田。

俺は、本当にそう思いますよ。

気張ってないで素直な自分の方が、なんだかんだ女の人は可愛いと。

真っ直ぐで、素直で、優しくて、天然で、よく笑うような。

例えば。

誰に対しても態度を変えず、笑顔を絶やさず、丁寧に話す花屋の店員とか。









「会いてぇな、A」








相変わらず会社の外は、蒸し暑い夏の風が吹いていて。

すれ違う人は皆、忙しなく足を動かしていた。



俺も早く帰ろう。



いつもは鬱陶しく思うその光景が、そうは見えなかった。


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿会社のヒーローにでもなりたかったのか


「ってことは、Aがヒーローっつーことか」


ヅラのセリフを思い出し、小さく独り言を呟く。

日曜日は、そんな可愛らしいヒーローに会いに行こうじゃねぇか。

花束２５→←花束２３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す