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ハッピーエンド13 ページ13

恐ろしく穏やかな空気が流れる。

どんな表情で座ってればいいか分からない。


「漫画」


「え?」


「俺が借りてる漫画でさァ。あれ、綺麗なハッピーエンドですよねィ」


私が貸した漫画は、昔売れたヒーロー漫画だ。

最近のものも何冊か持っていかれたが、全巻持ってかれたのは、その漫画。

最後にヒーローは無事に敵を倒し、恋人の元に会いにいく、なんてラスト。

無難と言えばそこまでだが、そのどストレートなラストが共感者を呼んだりする。

私はその一人だった。

綺麗なラストの方が、ストンと落ちたのだ。


「あれ、いつ返してくれるんですか」


「もう一周してぇんでまだ貸してくだせェ」


「もう一周!?もう自分で買ってくださいよ!」


「嫌でさァ」


ジト目で私を見て、コーヒーをすする。

ほんとにもう、いつまで借りる気なんだこの人。

呆れて小さくため息をつくと、彼はどこか一点を見つめ、こんなことを呟いた。


「ハッピーエンドなんて存在しねぇもんだと思いやすけどねィ。だからこそ漫画や映画の世界で、現実離れした幸せなラストを描きたがるんでしょうけど」


一瞬、解釈できなかった。

落ち着いて理解しようと思い出すと、それは実に悲しい事で。

どうしてそう思うんだろう。

前々からどこか影がある人だとは思っていた。

一歩踏み込ませないような空気を漂わせている彼に、どうすればいいか分からないでいる。


「綺麗なラストは、嫌いなんですか」


すると、空気がピリッとした気がした。

まずい、変なことを聞いてしまったのだろうか。

目の前の彼は表情一つ変えず、コトンとコーヒーカップを置いた。


「あ、すいやせーん。このモンブラン二つ、お願いしやす」


「え」


いつの間にか近くにいた店員さんに声をかけていた。

メニューを指差しながら気だるげにそう言えば、店員さんは笑顔で「かしこまりました」と頭を下げる。


結局、私の質問の返事は返ってこなかった。

掘り返すような話題でもないと気が引け、もう一度聞くなんてことも出来ず。

また他の話を穏やかな口調で話しながら、二人してモンブランを食べた。

あの一瞬見せた沖田さんの表情や、冷たい声音。

そしてあの言葉の意味が、忘れられない。

店を出てからも私はそればかり考えていて。

隣を歩く彼を怖いと感じる。


「お、沖田さん…」


「なんですかィ」


「あ…っ何でもないです」


変な感覚を、この感情を、言葉で表すとしたら…?

なんだろうか。

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お茶(プロフ) - アクヤさん» 素敵なコメントありがとうございます!頑張ります泣 (2019年11月9日 20時) (レス) id: 7f31983ff2 (このIDを非表示/違反報告)
アクヤ(プロフ) - とても面白いです!これからも頑張ってください!応援してます! (2019年11月9日 17時) (レス) id: 64d635022a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:お茶 | 作成日時:2019年9月1日 1時

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