箱庭の海45 ページ45
「え…?」
予想通り、母親は固まった。
信じられない、という顔で。
「そ、そんな、誰から…?私達はそんなこと」
「お母さんじゃありませんよ、あなたの隣に座ってる男です」
ヘラっと笑い義父さんを見ると、奴はニコニコと偽りの笑顔で首を振った。
「ッハハ、そんな訳ないじゃないか。急に酷いこと言うねぇ君」
「では貴方に聞きますけど、Aさんのこの痣、いつどこで出来たものか説明できますか」
俺はAと目線を交わす。
彼女はゆっくりと、ワイシャツの第一ボタンと第二ボタンを外した。
右肩だけをずらし、肌を見せる。
そこには、黒く濁り殴られたような痣が痛々しくあった。
体育祭の姫の衣装を着たA。
その時、ふと見えてしまった痣だ。
この家に来る前、母親に見せる勇気はあるかと聞けば、Aは強く頷いてくれた。
「他にも、腹や太ももにもあります。服を着れば隠れるんで、狙ったんでしょうね。転んだだけじゃ一度にこんな痣、できないでしょ」
俺は彼女のワイシャツに手を伸ばし、ボタンをとめた。
しっかり直してやると、目の前に座っていた義父さんが急に立ち上がる。
「汚い手で俺のAに触るな!!!」
そこで、奴はハッとなって口を手で抑えた。
急に怒鳴った義父さんに驚いた表情をする母親。
「ね、お母さん。それがその男の本性なんだよ」
Aは眉を八の字にさせ、悲しげに笑った。
怖くてたまらないはずなのに、Aは真っ直ぐそう言った。
「とりあえず座ってくんね?おっさん。話し、続きできねぇんだけど」
冷静になれよと煽ると、奴は舌打ちをして座った。
ふうっと息を吐き、俺はAの母親の目を見つめる。
「俺の両親は、車の事故で死にました。俺の目の前で死んだんです。横断歩道を渡る際、トラックが突っ込んできて、二人は俺を庇うように轢かれたんすよ」
初めて話す、両親のこと。
隣に座るAが目を見開き、俺を見る。
「六歳のガキの俺でも分かりました。この人たちは、俺の事を愛してくれてたんだって。命を失ってでも、俺を守ってくれたんだって。忘れたくないんすよね、二人のこと」
「何が言いたいのか分からないなぁ。君の話と今の問題、何も関係ないじゃないか」
怒りからなのか、声を震わせる義父さん。
けど俺は無視し、Aの母親に向かって笑った。
「実の娘の幸せを願うのなんて、当たり前でしょ。本当の幸せ見極めましょうよ」
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時