past2.崩壊* ページ8
壊れるのは、一瞬。
奪われたのは、突然。
魔女狩り、異端狩りという名目で連れ去られた修道女たち。
焼き払われた教会は、気付けば灰と化していた。
村の外から突然やって来た礼服に身を包んだ者たちは、クレイスから幸せの全てを取り上げてしまった。
「これより、魔女共を火炙りの刑に処す」
暫くしてある朝、村の広場のある方で響いた声にクレイスは走り出した。
ーーーーシスター!みんな!!
助けなくては。守らなくては。
無くしたくない。
一心不乱に走り、広場へと辿り着いた彼の目に映った物は、彼の望まぬ"赤"だった。
「…やだ…いやだ、そんな……やめろ…!」
十字に組まれた太い木に縛り付けられ、足元から紅々と燃える炎に炙られる修道女たち。
炎の熱さに悲鳴をあげて助けを求めるその姿を見て、クレイスは自身の脚が震えている事に気が付いた。
「あ、…ああ…なんで、なんでだよ…こんな…」
いつの間にか、広場には大勢の野次馬が集まっていた。
ある者は酒を片手に。
ある者は紙とペンを持って。
ある者は笑い、またある者は彼女たちに蔑みの言葉を吐き捨てる。
誰も助けようとはしない。そんな事をすれば、自分にも火の粉が降り注ぐと分かっているからだ。
「シスター…ミリア…サーシャ…ライヤ…ジェイミー……」
震える脚では立っている事すらまま成らない。大切な家族を助けたいのに、走る事が出来無い。
焼けただれた彼女たちの肌は既に元の面影を残してはおらず、焼けた喉は声を発する事が出来ずにヒュウヒュウと乾いた息が聴こえてくる。
「動け!動けよ、この!!」
ガクガクと震える脚はまるで生まれたばかりの山羊の赤ん坊のように言う事を聞いてくれない。
ーーーー早くしないと…!
助けなければ、と顔を上げたクレイスは、自身の息が止まったかのような錯覚を覚えた。
「ヒッ…ぃ」
炎の熱で熔けた肌。
ぽっかりと空いた暗い二つの空洞から、ドロリと垂れる赤黒い物。
此方の方へ顔を向け、息があるのか無いのかパクパクと開いては閉じてを繰り返す口は何かを伝えるような仕草を見せていた。
彼女たちはもう長くは持たないだろう。それは、幼い彼にも分かってしまった。
「シス、ター…」
消え入るような言葉は届いたようで、目の前の彼女は小さく反応した。
「シスター!シス……ッ!」
そして今度こそ、本当に彼は息をするのを忘れた。
【何故、お前ではなく私たちが】
彼女の口が、そう動いた。
それは、彼の大好きな家族が彼に向けて紡いだ最後の言葉。
瞬間、彼は気付いてしまった。
初めから自分は、愛など知らなかったのだと。
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碧石杜@奈良定(プロフ) - ありがとうございます。 (2017年2月5日 10時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
Dhian(プロフ) - 凄くカッコイイ話です。続き楽しみにしてます (2017年2月5日 9時) (レス) id: d3419f40dd (このIDを非表示/違反報告)
碧石杜@奈良定(プロフ) - やまださん» ありがとうございます (2017年2月2日 20時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
やまだ - 更新頑張って下さい! (2017年2月2日 19時) (レス) id: c225b78ce7 (このIDを非表示/違反報告)
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