3.戯れ ページ5
「…不味い」
祓魔師の血は、はっきり言って不味い。とにかく不味いのだ。旨いと思ったのは最初だけ。だがアレにしてみても、極限の空腹であったためのことだろう。
口に含むことすら憚られるが、飲まなくてはまたこの間のようになりかねない。これならば其処らの鼠の血でもすすった方が旨いのではなどと思ってしまう。
「とても人間の血だとは思えんな」
ストローから口を離し、顔をしかめて言葉を零せば、横から声が飛んで来る。
「文句があるのなら飲まなくても結構ですよ?」
「…あんな醜態を再び晒すよりはマシだ」
「……おい」
「私はまた拝見してみたいのですがねえ」
ニヨニヨと嫌味に笑う顔に舌打ちをすれば、下品だと返ってくる。
「煩い。遊びたいのなら他を当たってくれ」
「おや、残念」
「……おーい」
そういえば今まで考えた事も無かったが、悪魔の血はどんな味がするのだろう。気にならないと言えば嘘になるが、身近な人型の悪魔など目の前のペテン師しか思い浮かばない。中に舞っているのは腹の足しにもならないし、グールは論外だ。腐った血など飲んで堪るか。
「そう言えばメフィスト、貴様の血はどんな味がするんだろうな」
「おやおや、アナタが冗談を言うなんて珍しい。槍でも降りますかね」
「至って本気だが」
「おい」
「……絶対に嫌です」
「……」
「一滴だけでいい」
「嫌です」
「おい!テメェら、聞こえてんだろ!!」
ガタンと音をたてて立ち上がり、ダァン!と背の低いテーブルを踏みつけて叫んだのは、神父服を着た眼鏡の男。白髪は恐らく生まれついての物だろう。気配と匂いからして明らかに祓魔師なのだが、どうもメフィストの友人らしかった。
「メフィスト、お前。わざわざ呼び付けて一体何の用なんだ」
「見て分かりませんか?彼を紹介しようと思いまして。まあ、この通り吸血鬼ですが」
「……祓魔師は好かん」
そう言って視線を合わせないように反らし、話す事は無いという意思表示の代わりに再び輸血パックの血をすすれば、神父は意外だというように息を漏らし、言葉を続けた。
「お前、吸血鬼なんだろ」
「………」
「…何でこんな所に居るんだ」
「………」
「名前は」
名前
なまえ。……俺の、名前は。
「…………名前は、無い」
答えると返答があったことに驚いたのかやけに歯切れの悪い声が神父の口から零れた。自分で聞いた癖に何を驚く必要があるのだろう。こんなものただの戯れだろうに。
しかし、まあ、悪くはない。
浮かれている、自覚はある。
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碧石杜@奈良定(プロフ) - ありがとうございます。 (2017年2月5日 10時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
Dhian(プロフ) - 凄くカッコイイ話です。続き楽しみにしてます (2017年2月5日 9時) (レス) id: d3419f40dd (このIDを非表示/違反報告)
碧石杜@奈良定(プロフ) - やまださん» ありがとうございます (2017年2月2日 20時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
やまだ - 更新頑張って下さい! (2017年2月2日 19時) (レス) id: c225b78ce7 (このIDを非表示/違反報告)
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