2.飢え* ページ4
あれから数週間。
俺はメフィストの手によりバチカン本国から極東の島国へと身柄を移された。
奴によると此処はニホンという国らしく、妙に熱烈に語られはしたが小さくも気候の差が激しい土地だという点を除けば、俺はあまり興味を引かれなかった。
俺は吸血鬼であるため、悪魔のように人の食事に当たり前に味を感じることは出来無い。退屈凌ぎに渡された鍵で出掛けてみたが、平和呆けした人間で溢れた世界はどうにも居心地が悪かった。
そして迎えたある新月の夜。
「う"……クッ…っあ…」
熱い。苦しい。たりない。渇く。欲しい。
血を求めるのは、吸血鬼としては当たり前の事だ。しかし、その吸血衝動に加えて百年の飢え。とても正気では居られない。
「随分と苦しそうですねえ。まあ、それもその筈。アナタは目覚めてから一度も…そして一滴も、自分のすべき食事を口にしていないのですから」
厳重に結界を張り巡らせた部屋に、手錠と首輪に囚われて転がされている俺の横に膝間付き、笑う悪魔。
「使い魔に見張らせてはいましたが、アナタが人間を襲い始める前に対処が出来て良かったです」
「…黙れ…ッ!う、…っあ」
「まるで発 情期ですねえ。血に飢え、力も満足に奮えず悶えるしか出来無いとは…」
「ひ…ぁあ、…う…んんっ……クッ、触るな…」
吸血鬼は極限まで飢えると、血を探し易くする為に感覚が通常よりも鋭くなる性質がある。
獲物の匂いや音を逃がさない為に。身体の全てが、外からの刺激に過敏になるように。
当然、それには触覚も含まれている。
「ッあ……ン…っ、遊ぶな!」
敏感な身体が憎い。
愉しげに左手でスルリと頬を撫でられ、右手で軽く髪の間に指を通されるその行為を、まるで犬のように快楽として感じてしまう。
快楽と渇き。正反対なそれらを受け入れ、あらがう事も出来無いとは何と情けない。
「あ、忘れていました」
水を失い、それでも泳ぐ事を止めない魚のように、与えられる感覚にビクビクと身体を跳ねさせていると、メフィストは突然思い出したように声をあげて手を止めた。
「……」
「私、食事を持って来て居ましてね。アナタの為に」
自慢気な顔で帽子の中から赤い液体の揺蕩う袋を取り出すその姿に、殺意にも近い感情を覚える。
「…何だ、それ」
「コレですか?ただの輸血パックですよ。バチカンで医務室から少々拝借して来ました」
その言葉に、気怠い身体を起こして壁に背を預けて座る。
先を切ってストローを差し込まれたそれを黙って受け取れば、見馴れた胡散臭い笑みと目が合った。
「よくできました」
「黙れ」
貴様に躾られた覚えなど無い。
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碧石杜@奈良定(プロフ) - ありがとうございます。 (2017年2月5日 10時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
Dhian(プロフ) - 凄くカッコイイ話です。続き楽しみにしてます (2017年2月5日 9時) (レス) id: d3419f40dd (このIDを非表示/違反報告)
碧石杜@奈良定(プロフ) - やまださん» ありがとうございます (2017年2月2日 20時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
やまだ - 更新頑張って下さい! (2017年2月2日 19時) (レス) id: c225b78ce7 (このIDを非表示/違反報告)
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