【青の祓魔師】名も知れぬ蝙蝠【男主】 (ページ16)

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past5.喰らう* ページ16

この傀儡どもを壊せるのなら、死を心の底から渇望するような苦痛を与えられるのなら、この肉も、血も、声も、魂もくれてやる。
だから、

「この地獄をおわらせてください」

──かみさま。

瞬間、

「あ、ぇえ…??」
目の前の男の首が胴と離れた。
それから、ひとつふたつみっつと、悲鳴と血の匂いと骨の砕ける音が、肉裂ける音が聴こえてくる。
ポキポキ、ペキャリ。グチャグチャ、トスン。
それから暫くして、肉の焼ける匂いが漂って来た。恐らく、村人の持っていた灯りが屍に火をつけたのだろう。脂が熱で溶ける音、煌々と燃える肉人形の山。ああ、ああ……なんて、

「なんておいしそうなんだろう」

空腹が限界に達していたからか、それともクレイスが狂っていたからなのか分からない。しかし、クレイスは燃え盛るそれらにゆっくりと近付くと、おもむろに火の着いた欠片を拾い上げた。それからふぅーっと静かに吹き消すと、自らの口元に運び、噛みちぎった。
数回咀嚼してコクリと飲み込むと、また再び口へ放り込み、それからまた、と何度も何度も繰り返して、クレイスは人であった肉たちを夢中で喰らった。骨すら噛み砕いて、髄まで穿り出してそれでも飽き足りず食べて食べて、満足する頃には炎も消えて辺りには砕かれた骨の破片が散らばっていた。

「おー、おー、い～い喰いっぷりだったなあ、坊主！」

両手と口の周りを血で汚し、ぼーっと立ち尽くしていたクレイスの肩にポンと手が置かれ、隣からそんなカラカラと楽しそうな男の声が聞こえた。驚いて振り向くと、鼻先が触れるてしまうのではと思うほどすぐ近くにその男の顔があったので、クレイスは思わず後ろへ飛び退いた。
「うわあ！？……ったい！」
飛び退いた時にちょうどそこにあった骨を踏んでしまったそれがまたおかしかったようで、男は腹を抱えて笑う。
「ははは！悪ぃな！！いや～、俺を呼んだ人間だからどんな奴かと思えば、こーんなガキなんだもんなあ。ちょいと汚ぇのが不満ではあるが……ほーう」

いいな、お前。

ズイっと男の整った顔が近付いてくる。
血管が透けてしまうのではと思うほどに白い肌。紅茶のように赤い瞳。雪のような白銀の髪。おおよそ人間離れした容姿の男に、クレイスは今更ながら目を奪われた。
パチパチと瞬きをしながら頬を僅かに染めるその様子に気が付いたのか、悪戯にニィと笑った男は「ああ、ほんとうに、悪くない」と言ってクレイスの首筋に軽く口付けを落とした。

「着いてこいよ」