【青の祓魔師】名も知れぬ蝙蝠【男主】 (ページ13)

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10.聖なる悪魔ページ13

「だめよ…あの方にあなたは相応しく無い。あぁ、なんてこと。嘆かわしいわ」
現れたのは、十字架の刺繍をあしらえた白い修道服を纏う少女だった。笑顔を崩さず発されるその言葉は怒りと悲しみに満ちており、感じる魔力は並みの悪魔を遥かに上回っている。
俺の左手の穴は既に塞がっているようだ。確認の為に開いて閉じてを繰り返し、傷のひとつも残していないのを確認すれば目の前に立つ姿ばかりの幼童は顔を歪めた。
「こんな汚れた存在、この世界に在っていい訳が無いのに」
その言葉が言い終わるか言い終わらないかの内に心臓に向けて伸びてきた白い腕。それを避ければ、背後にあった教卓がベキリと抉れる。ひゅっと息を詰まらせる音が聴こえて目をやれば、一番前の席に座っている生徒が身体を跳ねさせた。
「各自、自分の身を守ることを最優先にしろ。死にたくなければな！」
マステマと距離を取りながら生徒に向けてそう言えば、皆素早く教室の後ろに移動する。誰一人外に出ようとしないのはいい度胸だが、アレらの頭の半分を占めているのは好奇心だろう。
「何故冒涜者がこのような場に居るのかしら。その存在すら認めたく無いというのに」
刹那、その姿が歪む。空気に溶けるようにして消えた気配を追えば、背後にそれを感じた。
「…ッ！」
振り向いて胸部を守ればマステマは驚いたように目を見開いたが、その細い腕は確実に骨をへし折った。相手が心臓以外を狙って来ないとはいえ、そう簡単にはいかないようだ。どうしたものか。
「あら、案外脆いのね」
己の力に絶対的な自信があるのか、奴はその腕力のみで戦おうとしているらしかった。しかしそれは油断であり慢心。愚かな者の行いだ。狂信者が聞いて呆れる。
「そうだな。だがお前はもう少し、魔術というものを知った方がいい」
折れた両腕、背には黒板。目の前にはヤツが居るが、なに、大した問題ではない。
「人間の術は私に必要無いわ…そのまま散りなさい、汚れた者」
聖母の慈愛の笑みにも似た表情に似合わず、その声は氷柱のように冷たく尖っていた。迫る腕は明確な殺意を帯び、魂を刈り取らんとする。だがそれが届くよりも、俺が脚の関節を後ろに捻り思いきり蹴った陣が歪にひび割れ、剥がれ落ちるのが早かった。
「あ」
長い間召喚される事が無かった為、忘れていたのだろう。なんと呆気無い。
「召喚された悪魔は、陣が消えれば消える。覚えて置くと良いだろう」
こんなもの初歩中の初歩だろうに。まあいい。

消えた白い影に安堵する生徒を置いてチャイムと共に教室を出れば、見慣れた目付きの犬と目が合った。