【青の祓魔師】名も知れぬ蝙蝠【男主】 (ページ12)

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9.祓魔の学人ページ12

「なあアンタ。ホンマに祓魔師なんか」
後ろから聞こえた声に振り向けば、他よりも派手な格好をした金髪の生徒がひらひらと手を振っていた。妙な喋り方だが、恐らく英語やドイツ語などで言う訛りなのだろう。
「それは何を以ての言葉だ」
言葉一つで動揺などしないが、それでも普段より幾分か温度の無い声が零れた。
「明らかにやる気あらへんやろ。俺はそないなヤツに教わりたないんや」
見た目に反して中々真面目らしい。言い分は分かるが、此方も息子の運動会とやらの為に休んだ講師のせいで無理矢理押し付けられたようなもの。渋々なのだから仕方が無い。
「だが今、俺が貴様らの講師である事に変わりはない。俺の事はメフィ…理事長が説明済みだと聞いているが、貴様はその意志に反するということか」
なあ小童、不満があるなら言ってみろ。
微かに殺気を籠めてそう言えば、金髪の生徒は静かに手を下げた。
「…すんません」
しんと静まった教室に響いた声には少しばかりの哀愁が滲んでいた。頭を垂れて拗ねる姿は、まるで飼い主に叱られた犬のようで、なんだ、可愛いやつじゃないか。小さく笑って言えば教室の雰囲気が少々和らいだ。
「では授業を始める」
この学舎の学人は素直な者が多いらしい。普段教えている者が優秀なのか生徒が優秀なのか。どちらにせよ扱い易いのは有難い。
さて、今黒板には先程話しながら書いていた召喚の陣がある。此処で学ぶ者には見た事も聞いた事も無い種類の物だろう。それもその筈、これは俺が眠りに着く以前には既に騎士団では禁忌とされていたのだから。
「俺はお前たちに悪魔の召喚の仕方を教える訳じゃない」
陣に左手を重ね、傍にあったペンで甲から貫けば背後から息を呑む音と小さな悲鳴が複数聴こえてくる。それを気に留めずペンを抜くと其処から溢れ出た血が黒板を伝い、陣に触れ瞬時に蒸発する。白いチョークで書かれたそれは、血と魔力を吸い赤黒く変色していた。

「"聖なる厄災よ"」
「"聖者を導け"」
召喚に応じるのは、何よりも純粋で何よりも残酷を好む悪魔──マステマ。
神に遣えるとされるソレは、名の通り"敵意"そのもの。聖者を天へ導く試練とも言われるが、俺はそんなもの信じていない。
「"主への道を行く者に試練を"」
この場に聖人の類いは居ない筈だが、奴がそうだと認めてしまえば同じ事。なればこの教室の半数は死ぬかもしれないが、まあそれも一興。
「俺が"見せる"のは、召喚した悪魔の制御の仕方だ。自分の使い魔に喰われては、とんだ間抜けだからな」