1.目覚め ページ2
光が、見えた。
懐かしく温かい、大きな光。
遠く目に映るそれに全身が歓喜をあげ、薄ぼんやりとした意識を揺らして起きろよ起きろと浮上させる。
ーーーー何だ。
それが光の温かさなのかは分からないが、身体の内側から熱が滲む感覚に、目覚めなければと、ある種の衝動と言っていい程の叫びを鼓動を打つことを忘れていた胸が激しく訴える。
守らなければ、アレとの約束を。
ーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
「おやぁ?漸くお目覚めですか。吸血鬼というのはこれまた随分とのんびりとした生き物なんですねえ」
目を開き身体を起こすと、聞き覚えのある胡散臭げな声が皮肉を含んで飛んで来た。ほぼ反射的にその方向に顔を向け、思い浮かんだ名を溢す。
「メフィスト…」
長く眠っていたせいか、あまり上手く声が出ない。心無しか思考もまだどこか曖昧なように感じる。ああ、なんともどかしい。
眠りとはこういう物だったか。人の営みなど、とうの昔に忘れてしまったというのに。
思うようにまま成らない自身への苛立たしさに顔を歪めれば、至極楽しそうに口元を吊り上げた古びた縁の知人が、カツリカツリと足音を立てながらゆっくりと近付いて来る。
「久しいですね。気分は如何です?」
「……最低だ。こんな息の詰まるような所で、目覚めて最初に会うのがお前だなんて…この封を開けたのは、お前か?」
結界の魔力の流れと覚えのある多数の人間の気配からして、此処は相変わらずあの忌々しい狩人共の巣なのだろう。そして、俺が居るのはその地下。
周りの岩壁に彫られた幾つもの陣は幾重にも重ねられた封印の証である筈だが、その中の一際大きな陣は岩ごと粉々に打ち砕かれている。
「いやはや、残念ながら私ではありません」
「…では、誰が」
「さあ?」
「おい」
「本当です。懐かしい魔力を感じて来てみれば、気持ち良さそうに寝こけるアナタが居た。私には唯それだけの事です」
貼り付けられた笑みは偽り。吐き出される言葉は迷い言。流石誘惑の悪魔だ。
百年振りに見るそれには怒りを通り越してヘドが出る。コイツは確実に何か決定的な事を知っている筈だ。だが、それを隠すという事は、つまり。
「…今度はどんな"遊び"に付き合わせる気だ」
「ほう。寝ている間に中々話が分かるようになったじゃありませんか」
拒もうとも無駄ならば、最初から腹を括ってしまった方が楽だ。
「児戯も程々にして欲しい物だな」
「フフフ…歓迎しますよ。名を忘れられた憐れな蝙蝠。この狂った茶会を、共に楽しもうではありませんか」
嗚呼…本当に、最悪の目覚めだ。
115人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
碧石杜@奈良定(プロフ) - ありがとうございます。 (2017年2月5日 10時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
Dhian(プロフ) - 凄くカッコイイ話です。続き楽しみにしてます (2017年2月5日 9時) (レス) id: d3419f40dd (このIDを非表示/違反報告)
碧石杜@奈良定(プロフ) - やまださん» ありがとうございます (2017年2月2日 20時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
やまだ - 更新頑張って下さい! (2017年2月2日 19時) (レス) id: c225b78ce7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ