Crystal _ 虹彩の彼方 ＿

STOP _Side/KENJIRO'_ ページ23

『…私…別れない…』

絞り出すように"彼女"が放った言葉は
静かに細く出されたモノやったけど

それでも凶器みたいに鋭利にも聴こえて
俺の手を掴み取る手のひらはどこまでも冷えてた

『…私は嘘なんか付いてない…好きな人が居るみたい…とは言ったけど健二郎じゃない…なんて言ってない…』

彼女の言葉で俺は殴られた…みたいな気がした

それが何一つ間違いなくて
あまりにも "その通り" やったから…

『…確認だってしようと思えば出来たのに…しなかったのは健二郎じゃん…ｯ』

震える声で
ボロボロ流れる涙で
まっすぐに見つめる瞳で俺を射抜く言葉は

『健二郎は確認するのが怖かったんでしょ…?』

俺の心の核をぶち壊してく気がした

…怖かった…?

"彼女"の言うとおりやな、思ってしまった

心地いい関係を壊すことも
心地いい距離を壊すことも

"友達"でさえおられんくなってまう事も

ホンマに、どれをとってもただ "怖かった"…

『…確かめる事も出来たのに健二郎はしなかった…確認しないまま私との未来を選んでくれた…私は…嬉しいとは思ったけど、けどいつかこんな繋がりも壊れる気がしてた…だから…私もずっと怖かった…』

"なのに"

『…なのに私だけが悪いみたいな…そんな言い方ズルイ…酷すぎるよ…』

_私もただ健二郎が好きなだけなのに… ＿

"彼女"の最後の言葉はもう悲痛なくらい響いた

やから
ホンマに全部、俺や…と思い知らされた

確認せんかったのも俺
確認せんまま未来を択んだのも俺

そして今は…
分かりつつも"彼女"を傷付けてんのも…俺…

ヒクッヒクッ

涙と鼻を啜る"彼女"の小さく頼りない姿

ゴメンと言うには遅すぎて
抱き寄せるにはもうすべてが嘘な気がして

男らしく有りたいのに
"彼女"に出来る事が何なのか解らなくて

女々しいのはイヤや…と思うのに何もしてやれんくて

此処に居るのは
自分でも嫌になってまうくらいの優柔不断な俺…
…それだけ…

「…俺はホンマに、ダっさい奴やな…」

してやれる事も見つからんくて
どうしてやるのがいい事なんかも分からんくて

苦く呟いてたヒトリゴト

そんな俺の胸に"彼女"はコツンと頭を付けるから俺はもうそれを"離すこと"…出来へんかった

『…いちばんじゃなくていいから…傍に居させて…』

そう願う言葉に"嫌や"…言われへんかった

ただそっと髪を撫でて
ただ抱き寄せる小さな体に

俺は何も出来んまま、言えんまま
そっとそれ以上"考える事"を止めた

…それが正解な気がした…

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