Crystal _ 虹彩の彼方 ＿

刹那 ページ16

『ずいぶん久々やな…』

偶然に山下さんとデパートで会ったのは
亜嵐と肌を重ね合った夜から何日か過ぎた日で

いちばん最初に
"今で良かった"…なんてそう思ったのは

そこに亜嵐がいなかったから＿

亜嵐が"折り返しの電話を入れるため"に場所を移動した後だったから＿

"別に私が誰と居ても山下さんには何の関係もない"

そんな事は痛い程に分かってるし
山下さんだって、きっと1人でいる訳じゃない

…そんな事も十分に解ってる…

きっと
この館内の何処かに彼女さんはいるんだと思う

けど今は2人きり

『元気やった?』
「…はい。元気です…山下さんは元気ですか?」

どこまでも当たり障りない会話だけど
それでもこれが私なりの精一杯の会話…

"うん、元気してるで"

本当に久しぶりに聴く山下さんの声

なんにも変わらなくて
だから幸せそうにも見えて

「良かったです」私は笑顔で取り繕ってみせる

2人きり

本当はずっと話していたいのに
少し話すだけで話す内容は無くなってしまって

『…じゃあ私行きますね』

挨拶してスルリと山下さんから離れる私と
何処からか戻ってきた彼女さんが

『ごめん待たせちゃった』
入れ替わりのように山下さんの隣に並んでしまう

自然と並ぶ2人のその姿に
山下さんの幸せが垣間見える気がして

"やっぱり彼女さんと来てたんだな"…って

"もしかしたら"彼女さんが離れていたから"話しかけてくれたのかな"…って

心の中

1人で泣きそうになって、だから無理に笑って

チクチクする気持ちをぐっと隠して

必死で歩き始める私の背中に

『ねぇ、良かったらいっしょに食事しない?』

そんな彼女さんの優しい声がしたのは

『ごめん.思ったより長電話になった』＿って

亜嵐が帰ってきたのと同じタイミングで

だから
ダメなのに…ズキン…って胸が鳴いた気がした

亜嵐の気持ちを考えないでひたすら素直に言ってしまうとこのタイミングに"絶望感" を抱いてしまった

そして
_『彼氏くん？イケメンだね♡』_

無邪気な彼女さんの言葉にすぐに肯定出来ない私も存在してしまうから

私はすぐに
山下さんを見れなくなった
でも、亜嵐の事も…見れなかった

『誰?』そっと問い掛ける亜嵐の質問

そんな質問に"職場の人"としか答えようのない存在は遠く切なくて

私にとって

山下さんへの本当の気持ちを隠して
亜嵐の想いを欺いてしまっているこの空間は

大袈裟な表現だけど_流刑地_みたいで

私の心は必死で"逃げ出したい"って叫んでいた

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