REAL _最初で最後の恋_ 2

ファン ページ6

ザザザ

待ち合わせ場所で待っていた私の耳に

そんな砂を蹴る音が聴こえた23:30_


振り向くまでもない私の耳に

『どうやった？コンサートは楽しめたか？』

低くもなく高くもない

少しだけ特徴的な健二郎の声が響いてきて

私の体は一気にガツンと強張ってしまった

足元の私の影

そんな影を飲み込むような健二郎の大きな影


近付いて
そしてくっつきそうになって

でもくっつきそうになってたのは "影" だけだった

シャワーを浴びて
スウェットに着替えてた健二郎は

『コンサートなんかけーへんかと思うてた』

…なんて言うから

私にはもうそれは "三代目" イガイの何でもなく見えた


…会いたかった…も。

…やっと逢えた…も。

…今でも私は健二郎の事が好きなんだ…も。


口の中で少しだけもごもごしただけで
ビックリしてしまうくらい何も出てこなかった


…TVで見るよりも大人になってるんだな…

ふと考えた事はそんなモノで

だからまた1つ。知らない人に見えて


精一杯の勇気で言えたこと
そんなのはたった1つ。

"これ。ありがとう…"

手付かずなままのコーラとJSBフラッグをちょっとだけ手にして言った言葉…。だけだった


ん。

短く頷くだけの健二郎と
もうそれ以外は何も言えない私との微妙な空間は

私に ただ。

"もう健二郎の事…長く引きとめてちゃいけない"

そんな考えを与えるだけで

だから私は最後に

「…わざわざ時間取ってくれてありがとう…」とだけ伝えた

…それだけは伝えなきゃいけない。と思った…


『なら俺、行くな？』

そう言って背中を向ける健二郎の広い背中

私は見えなくなるまで見送ろうって
1歩もそこを動く事なく立ち尽くして見ていた


あの頃の背中より広い背中と
あの頃の肩幅より広い肩幅は

遠い…と思っていたあの頃の健二郎より

ずっとずっと遠くに見えて

私は涙すら流せないまま見ていた



もう終わったんだ…

もう健二郎の中で私は思い出なんだ…


当たり前なのに

哀しいも苦しいも痛いも切ないも


言葉なんかじゃ足りないほど
哀しくて苦しくて痛くて切なかった


手をグンと伸ばして
でも。そっと降ろした私は

なんだかもう "ファン" だった


遠くて

手に入ることは決してなくて

でも。それでも愛しくて…。

そんな想いはもう "三代目.山下健二郎" のファン…そのものだった


だからファンとして叫んだ

"行かないで" …


もう届くわけ無い…って解りながら叫んだ

"健二郎.大好きだｰｯ!"


全力だった

立ち止まる背中→←コーラとフラッグと鉄の柱

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