・《 sh side 》 ページ43
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慎太郎に掴まれた胸元が今もズキズキと痛む。
早歩きで病院を後にした俺は、必死に零れそうな涙を拭った。
苦しかった。慎太郎のそばで笑うAの姿が嫌でも浮かんだ。
この３年間、何度も何度も言い聞かせた。
親友の好きな人だから、俺はちょっとだけ歴が長いだけだ、って。
慎太郎はきっとAのことを幼馴染だなんて思ってない。
最初から分かってた。Aに向ける視線が明らかに違った。
小４、慎太郎が近くに引っ越してきてすぐ近所の公園で会ったとき、
お母さんの後ろに隠れながらAのことをずっと見てた。
引っ込み思案かと思いきや、ただの照れ隠しだった。
中学に上がっても、それは変わらなくて。
俺とは違って愛想も良くて、みんなに好かれてた。
学年が１つ下だから、校内で会うことはほとんどなかったけど、
俺らの学年でも慎太郎は人気者だった。
偶然見かけた、慎太郎が告られてるところ。
「好きな人がいる」とハッキリ断っているところ。
「A先輩？」と聞かれて「そう」と答えているところ。
確かに、Aは昔から可愛かった。
幼稚園のときから俺だけのマドンナだった。
近くにいるのが当たり前で、俺から離れることは有り得ないって謎の自信だけがあった。
慎太郎がAを好きだと分かった途端、俺は自分の気持ちに蓋をした。
Aに告白されたとき、どうしようかと思った。
薄々感じてた。周りからの報告や、直接的に俺に対しての態度も
慎太郎とは違った。特別だと思った。嬉しかった。苦しかった。
だから逃げた。
Aからも、慎太郎からも、自分からも。
好きなダンスに全てを捧げた。
……つもりだった。
忘れようと思えば思うほど、色濃く浮かぶAとの日々。
生まれた頃からずっと一緒だった。
俺の想い出、全部お前がいんの。
慎太郎には負けないくらい自分の気持ちが大きくなってんのも分かってんの。
３年なんてあっという間で、Aを見た瞬間、一瞬で蘇んの。
怖いくらいにすぐだった。蓋をしたはずの気持ちが溢れかえって戻せない。
こんな感覚はAにしか有り得ない。
他の誰でもないAなんだよ。
もういい。もうやめたい。邪魔者は消えるから、頼むからもう嫌いにさせてよ。
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作者名：詠夢
| 作成日時：2021年2月7日 7時
