雪恋。

寒い夜。１ ∞・黄 ページ32

Aside


かれこれ７年ぶり。


「出戻りの錦戸です。
７年間、東京で修行してきました。
またホームの大阪で頑張りますんで、
よろしくお願いします」


年明け出勤、第一日目。

同期の錦戸が東京本社から戻って来た。


私の目の前に現れた彼は、
あの頃とは見違えて、大人の男になってる。


７年も会ってないねんから、
当たり前といえば、当たり前やねんけど・・・


みんなの拍手の中、
強張った表情を少し緩めた錦戸が、
軽くお辞儀して・・・


ちらっと目が合いかけた瞬間、

焦って、慌てて、
目をそらしてしまった。




錦戸が用意された自分のデスクに着く。


窓際の係長の席は、
出入り口付近の端っこの私の席からは遠く離れてる。

７年前、お互い新入りやった頃は、
隣同士やったのにな。


電話の音と、
キーボードを弾く音、
誰かの話し声、

煩雑な日常で、

こっそり盗み見た彼は、

早速、真剣な顔して仕事に取りかかってて。


錦戸、なんて、気安く呼べる雰囲気はもうない。


スーツの着こなしもすっかり洗練されちゃって、
肩書きやって、今や最年少係長。


かたや私はいまだ、契約社員止まり。

すっかり、溝開けられちゃって、
自信喪失中。







昼休み。

社食から戻ったら、

うちの課のみんなが錦戸を囲んで、
楽しそうに談笑してた。


久しぶりやし、
東京の本社帰りなんて、
ちょっとしたヒーロー扱い。


その中に混ざる勇気もない。


お互いに新入社員やった頃は、
一番、気が合ってたのに。


はあ。

ため息つきながら、
コピー機のインク、補充してたら。


「何ため息ついてんねん。
幸せが逃げるで」


いきなり肩叩かれて、
心臓止まるかと思った。

振り返らんかっても、
この声は錦戸やってことは分かってる。


前みたいな、
いかにも仲良い同期そのものの話し方。


「これ頼むわ。
午後からの会議用の資料。
５０部コピーしてくれへん？」


差し出された資料。

綺麗な手が、目の前に差し迫ってきた。


錦戸って、案外、手、おっきいねん。


はるか昔に、
この手と手を繋いだ時のこと思い出して、
自然と頬が熱くなる。


ドキドキしてんの悟られへんよう、


「分かりました」


目も合わせずに答えたら。

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